精霊の御子

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 正直、国が亡ぶこと自体はどうでもいい。少なくとも自分たち上流貴族は生き残ることができる。御子が代替わりすれば再興出来ることは既に先人たちが実証済みだ。  問題はエリオットがとてつもなく哀しむであろうということ。間違いなく彼の愛するアウレロイヤの街に災いが降りかかる。義母であるシェリーや義姉、愛する住民たちもただでは済まない。  哀しむエリオットの顔は見たくない。その原因が自身とユフィにあると知ったら、嫌われてしまうかもしれない。  つまり、エリオットの心を望んだ時点で、私欲と狂気に塗れた先達たちのように監禁したり手籠めにしたりすることは絶対的なタブーとなってしまった。ユフィ自身の精神的な死を前提とした最終手段だ。  ――今度会った時にでも、もっと恋愛対象について聞いてみる必要がありそうだ。  まだエリオットには早いだろうと、露骨な話を避け続けた結果がこのざまだ。知らず知らずのうちに成人し、まだなおユフィを求めてくれずにいる。  何はともあれ、王子に興味がないと断言してくれたのは幸いした。もし「相手が王族ならば……」などと告げられた日には――いや、やめておこう。そんな未来は存在しなかった。想像するだけ無駄なのだ、敬愛する兄と情のある甥の首をどのように落とすかだなんて。 「はあ……弱ったな。どうしたら君は望んで私のものになってくれるのだろう……」
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