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すれ違う思い
階下から聞こえる賑やかな話声に目覚め、エリオットはゆっくりと重い瞼を持ち上げた。
木製の窓格子の隙間から漏れた日差しに、とうの昔に朝を迎えていたことを知る。
――どれぐらい寝てたんだろう……まだ、起きたくないな……。
それでも体に鞭打って起き上がろうとすると頭痛と眩暈が襲い来る。ここ数日ずっとこの有様だ。かろうじて店番はこなせるが、鉢植えを運んだりお使いに出たりすることは難しい。
町医者には疲労によるものだろうと診断されているが、おそらく原因は他にある。
――自分がこんなに弱い人間だったなんて知らなかったな。
まさかユフィの結婚話にショックを受けて寝込むだなんて。
しかしそのおかげで、祭殿へ花の配達に向かわずに済んでいる。まだ、心の整理がついていなかった。ユフィに面と向かって「おめでとうございます」と言えるようになるまで、もう少しだけ時間がほしい。
シーツを頭まで被り直したそのとき、寝室のドアがノックされた。
「エリオット、調子はどうだ?」
「……ジン? どうぞ、入って」
エリオットがのそりと身を起こすと、軋んだ音を立ててドアが開く。簡単な朝食をトレイに乗せたジンが、心配そうな表情で入り込んでくる。
「顔色は……だいぶ良くなったみたいだな」
「うん、もう一週間以上も休んだし。……あ、暗いよね、窓開けるね」
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