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出窓の桟で花開くカレンデュラの鉢植えに気を付けながら、そっと薄手の窓格子を開け放つ。このカレンデュラは追肥の影響で枯れかけていたものを近所の家から引き受けたものだった。シェリーの魔法のおかげか、この家の中に置いておくだけで植物は元気を取り戻すのである。この鉢もそろそろ持ち主の元へ帰す時が来たようだと、少しだけ心が慰められた。
「これ、少しでも何か食べてから下りておいで、ってシェリーさんが。もう店を開けちゃってるからさ」
「ありがとう、わざわざごめんね」
ベッドサイドのテーブルに置かれたのは、鶏肉と野菜を煮込んだスープと田舎パンだった。スプーンを手に取り、早速一口、スープを飲み下す。それだけで頭が冴えたような気分になった。
「美味しい……ジンはもうご飯食べたの?」
「ああ、さっき食ったよ。で、一仕事終えて休憩中。といっても夕方まで暇なんだけど。昨日、東部の方から届けられた荷物は全部配達し終えたし、あとは持ち込まれたやつを整理して、三日後に来る商団に荷を渡して……あでも明日あたり、西からの便が来そうなんだよ」
「相変わらず忙しそうだねえ」
「まあそれなりに……あ、ええとその、祭殿の花、なんだけど。ちゃんとうちの弟を行かせてるから」
「ありがとう。ごめんね、僕がこんな状況だから」
ジンは「気にするな」と返しつつ、どこか落ち着かない様子で口をまごつかせた。
「あのさ……答えたくないかもしれないけど、聞いてもいいか?」
「? なに?」
「……祭りの夜、神官長様と何かあったのか?」
スプーンを運ぶ手がぴたりと止まる。こういう時に露見する、自分の正直さが嫌になる。
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