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「やっぱり……何か、酷いことされたんじゃ」
「! それは違う! ユフィ様はそんなこと」
思いがけず大声が出てしまい、慌てて口を噤む。椅子に腰かけたジンが驚いたような顔をしていて、申し訳なくなった。
「……ごめん、でも、本当にそんなんじゃないんだ。むしろ僕が勝手に……ともかく、心配してくれてありがとう。ここからは僕がどうにかしなくちゃいけない問題なんだ。だから、どうかジンは気にしないで」
「……そっか。でもまあ、何かあったらいつでも頼ってくれよ」
「うん、ありがとう」
ジンは沈んだ空気を弾き飛ばすように笑い、元気づけるようにエリオットの肩を叩いた。そして配達用のショルダーバッグから一通の封筒を差し出してきた。
「ほら。正直、迷ってた。もしお前が泣かされるような出来事があったなら渡さないつもりだったけど、ほら」
白く滑らかな手触りの紙は、一般に流通しているような代物ではない。宛先にはエリオットの名と、裏面には祭殿を表す封蝋が為されている。心臓が跳ねた。差出人の名は、もちろんユフィ・クロル・
アウレロイヤである。
「これ……あ、ありがとう、ジン……」
「いや、これも仕事だし。まったく、俺ならエリオットにそんなシケた面(ツラ)させないってのに」
「ありがとう、ジンは本当に優しいね。君のそういうところ、尊敬しているし大好きだよ」
ジンは虚を突かれたような顔をしたあと、どこか複雑そうな面持ちで視線を逸らした。その頬が紅潮して見えるのは、日当たりの良いこの部屋の気温が高すぎたためだろう。
「どうも。俺も、その……――いや、なんでもない」
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