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ジンは何かを振り払うように苦笑を見せて、そろそろ行くよと鞄を担ぎ上げた。片手を振り背を向けた親友に、呆気に取られつつ手を振り返す。
エリオットは手元へ目を落とした。一人になった途端に手紙がずしりと水を吸ったように重くなる。
深呼吸すると、意を決して、手入れ用の小さなナイフで封を切った。
手紙には、美しい文字でエリオットの体調を気遣う内容が綴られていた。君に会えない日々がこんなに寂しく味気ないものだなんて、という文章に胸が引き絞られるような思いがした。
――僕も同じ気持ちです、……なんてね、同じなわけはないのに。
ユフィの言う寂しいと、エリオットの感じる寂しいは全く異なるものに違いないのだ。そこをはき違えてはならない。
「よし……少しずつ、受け入れて立ち直らないと」
ユフィは婚儀を迎えたのち、祭殿を去ってしまうかもしれないのだ。落ち込んでいる暇などない、これから先、後悔しないように、彼と過ごす一瞬一瞬をこの胸に焼き付けおかなくては。
エリオットは軽食を完食すると、寝巻を着替えて店へと下りた。
明後日の配達で祭殿に持参する花を、今のうちから選び抜くために。
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