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すれ違う思い②
精霊の森は、普段と何一つ変わらずエリオットを迎え入れた。
エリオットは心なしか緊張した面持ちで、緩やかな上り坂を進んでいく。
――これまでと変わらない態度で接して、お祝いを言うのは打ち明けられてから……よし、僕ならできる。
従僕の話を盗み聞いてしまったなんてことを知られたくはない。結婚についてはあくまで知らないふりを貫き通さなくては。
そんなことを考えながら歩いていると、巨木と一体化した祭殿が見えてくる。ユフィと顔を合わせることに少々怖気づいているせいか、普段より長い道のりだった。自然とバスケットを抱える手に力がこもる。
「よし、行くぞ……こんにちは、エリオットです」
言いながら、ドアを二度、三度、ノックする。少しの間待ってみるが、返事はない。
不在らしいとほっとしたのも束の間。向こう側でガタガタと妙な音がしたかと思うと、扉の片側が勢いよく開け放たれた。
現れたのは、普段の様相からは想像もつかないほど明らかに焦燥したユフィだった。
「エリオット⁉」
「あ……こんにちは、すみませんご無沙汰して――」
「体調はもう大丈夫なの? 病み上がりなのだろう? 道中何もなかった? 言ってくれれば家から馬車を出したのに、あいつらは一体何をして……」
「え、えと……」
「とりあえず中へ入って? 疲れただろう? 今何か飲み物でも用意するから」
彼らしからぬ落ち着きのなさに戸惑いつつ、エリオットは勧められるまま戸をくぐった。
そっと盗み見たその横顔には、憔悴の影が色濃く落ちている。なるほど、先ほどの馬車がどうという冗談めいた軽口が、妙に真剣さを帯びて聞こえるわけだ。
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