花屋のエリオット

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 結果、青は神聖な色として扱われるようになり、今日では人生最大の契約を意味する婚儀において、とりわけ重要視されるようになった。  思わず見惚れてしまったものの、結婚などエリオットにはまだまだ想像もつかない、縁遠い出来事である。揃いの装束を纏う相手などいようはずもない。  ジェスリン王国において、男性は十五歳~二十歳の間に届け出を行い、認可されることで成人となる。そして成人すると同時に結婚が許可されるようになる。エリオットは養母であるシェリーと馴染みの司祭、居住区の顔役である商人のお墨付きを得て先月成人を迎えており、法的にも年齢的にも結婚を視野にいれなければならない時期にあるのだが。  ――僕はともかく、あの深い青に、あの方の金髪はとてもよく映えるだろうな……。  頭の中で、装束を纏いこちらに微笑みかける麗人の姿を思い浮かべる。一瞬とても幸せな気持ちになったけれど、自然と、彼に寄り添う伴侶の姿を想像してしまい、ちくりと胸が痛んだ。  エリオットは息継ぎをするように沸き起こった恋心を、ふたたび胸の底にぎゅっと沈め込んだ。自覚してはいけないものだからだ。  想いを伝えようだなんて微塵も考えていない。だって、庶民でしかないエリオットには分不相応すぎる相手だからだ。  言葉を交わせるだけで過ぎるほどの幸せなのだと、そう思わなくてはいけないようなお方だった。  ――ユフィ様も、いずれは誰かを選んでご結婚なさるんだ……。  ユフィ・クロル・アウレロイヤ。  領主たるアウレロイヤ家の末子にして、王家より下命を受け精霊を奉る神官を担う、心優しく気高き神の使徒のようなお方。
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