すれ違う思い②

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祭りの最終日から一週間以上経過しているが、まだ連日働き続けた疲労が抜けていないのかもしれない。あるいは普段の業務にプラスして婚儀の準備で寝る間も無いのだろう。  ――お忙しいんだろうな、せめて花を見て癒されてくれたら嬉しいんだけど……今日こそ早めに終わらせて帰らなきゃ。  ベンチに腰掛けるよう促されたエリオットであったが、ユフィが奥へ消えてしまうとすぐに作業を開始することにした。  花瓶を抱えて表に出ると、水を捨てて萎れた花を古木の根に並べてやる。単に捨てるのではなく、大地へ還すことにしていた。エリオットが持ち込む花は元からこの森に自生する種ばかりであるため、他の動植物への影響は考えなくてよい。  たとえ蒔いたのが赤や黄色の花であろうと、この森の中では青い花しか咲かなかった。もしかすると外から持ち込まれた種は発芽しないのかもしれないし、精霊の加護で青色に変化してしまう可能性もある。これは未だ明かされぬ、精霊の森の不思議のひとつだという。  ――……そういえば、青い花がたくさん咲いてるところ、まだ見てないな……。  御子が真実の恋に目覚めると、森中に青い花が咲き乱れるという伝承がある。それを兆候としていたために、エリオットはユフィの結婚を察知しかねたのだ。  おそらく森中というのは誇張された表現で、人目につかぬところに秘密の花園でも存在するのだろう。最初からエリオットのような庶民にはお目にかかれない代物だったのだ。ぐるりと前庭を見回して、そう一人納得する。木陰にリンドウらしき花がぽつぽつと咲いているが、あれは乱れ咲きの範疇には入るまい。
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