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その向こうの沢へ水を汲みに行こうとバケツを手にしたとき、ちょうど、扉から顔を覗かせたユフィと目が合う。
「エリオット⁉ 何をしているんだ⁉」
「ええと、いつも通り水の取り換えを」
「見ればわかるよ、でも病み上がりなのだろう? しばらく寝込んでいたんだよね? 急にそんなに重労働をしてはいけないよ」
「へ? でもこれが僕の仕事で……」
「いいから、こっちへおいで。ちょうど中庭の畑に水を撒く頃合いだ、ついでに他の者にやってもらうことにしよう」
エリオットは当惑した。
ユフィの気持ちは大変有難いものだ。けれど、誘いに乗ることになればまたもてなしを受けて長居することになる。それではまたユフィに時間を浪費させてしまう。何より、今日はユフィと心穏やかに談笑できる気がしないのだ。笑顔が強張って心配をかけたり、余計なことを口走ってしまいそうな予感がある。
――結婚の話をされて、笑顔でおめでとうってまだ言えない気がする……それだけじゃない、勢い余って、僕も実はユフィ様が、とか言っちゃったら、水を差すことになる……。
気まずくなって、もう二度と会えなくなってしまうかもしれない。想像しただけで逃げ出してしまいたくなる。絶対に避けなければならない未来だ。
「いえ、お心遣いありがとうございます。でもこれだけはやらせてください。僕の仕事ですから」
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