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「……自分の責務をこなそうとする姿勢は本当に素晴らしい。けれど、君が心配なんだエリオット……沢まで下りる途中に倒れられたらと思うと、気が気でなくなってしまう。水を汲んで花を飾るぐらいなら、私にも、従神官たちにも出来ることだ、どうか今日ぐらいは私たちを頼ってくれないかな?」
壇上で教えを説くように言うユフィに、エリオットはバケツの持ち手を握り締め、つい目を伏せてしまう。
ユフィにそんな意図などなかったことはわかっている。けれど、エリオット以外の誰にでもできる仕事だという事実を突きつけられてしまうと、ここにエリオットは必要ないのだと言われたようで哀しくなってしまった。
実際、そうなのだろう。花を育てること、運ぶこと、飾ること、どれもこれも、エリオットでなくてはならない理由なんてひとつもない。
しかし、エリオットにはこれぐらいしかできることが無い。今こうして此処に居る理由を見失わないためにも、今日だけは、譲りたくないと思った。
「……せっかくですが、すみません。本当にもう元気になったんです。これぐらい本当に平気ですから、どうか仕事を全うさせてください」
「エリオット……?」
軽く瞠目したユフィを見て、少し心苦しくなる。ユフィの厚意を無碍にするようで大変申し訳ないけれど、あの木陰の茶会会場を目にしただけで花嫁の姿を想像せずにはいられなくなってしまう。
エリオットは硬直したユフィに小さく頭を下げると、逃げるように作業を再開した。
とはいっても、まだ年若く身軽なエリオットにとって危険は何一つない。難なく澄んだ川の水を汲み上げ、二つの花瓶に注いで花を挿し、祭壇を飾る。
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