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その間、ユフィはおろおろとどこか落ち着かない様子でエリオットを見守っていた。普段なら書類の整理をしたり、厚手の本に何かを書きつけたりしているのだが、そんな素振りもない。余程、雇用者としてエリオットの体調を気にかけてくれているのだろうと思うと、それだけで全てが報われるような気がした。
一通りの作業を終えたエリオットは、透かした光を揺らめかせるステンドグラスを見上げて額を拭った。中央に佇む精霊には口元が描かれておらず、表情が読めない。それでも今は微笑してくれているような気がした。
精霊を象る青が、あの青と金糸の婚礼衣装を想起させた。だというのに、何だか清々しい気分だ。
これなら近いうちにこの想いを諦めて、笑顔で挙式に参列できそうな気がする。
――あ、また身の程知らずなこと考えてる……呼んでもらえると決まったわけじゃないんだから。
思わず苦笑した。彼への一方的な親近感も、早く捨ててしまわなくては。
エリオットはふと我に返り、慌てて踵を返した。ここでぼうっとしていては、お茶を頂かなくともユフィの仕事の邪魔になってしまう。
「ユフィ様、終わりました! 忙しいのに見守っていただいてすみません、でも、いつも通り危なげなく進められたと思いますので。これからはどうぞお気遣いなく」
「あ、ああ。ううん、いいんだ、私が好きで眺めていただけだから――」
「あはは、ありがとうございます。じゃあ、今日はこれで」
長居は無用だ、また離れがたくなってしまう。エリオットは適当に話を切り上げた。
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