すれ違う思い③

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 みなまで言うより先に、ユフィがエリオットの右手を取った。そして捧げるように持ち上げると、自身の頬にそっと押し付けて、うっとりと目を細める。  エリオットは心臓が破裂しそうな思いがして、言葉を続けられなくなる。 「他はどうでもいいんだよ。大事なのはエリオットがそう思ってくれているということだ」  あまりに蠱惑的(こわくてき)な光景と台詞に、上手く呼吸が出来なくなる。訳が分からなかった。そんな中でも、エリオットはその言葉の真意を理解すべく必死に思考を回転させる。  まず勘違いをしてはいけない。ユフィはエリオットを子供扱いしているからこそ、こんな君だけが特別だと口説くような台詞が吐けるだけだ。ではそんな相手に評価されたことの何が嬉しいのか。  ――そう言えば僕、あまりに恐れ多くて、面と向かってユフィ様を褒めたりしたことなかったかも。  ユフィが美しくて素晴らしい人間だということなど公然の事実である。わざわざ口に出すまでもなく当人は理解しているだろうし、そんな安易な言葉をかけられすぎてうんざりしているかもしれないと思ったのだ。  皆がエリオットのような考えを抱いていたとしたら、彼が直に称賛される機会は少なかったに違いない。つまり褒められることに飢えていたのだろう。そんな中で古なじみのエリオットが印象を口にしたから、ただの市民に聞くよりも嬉しいと言いたかったのだ。  そうだ、それだけに違いない。そう言い聞かせるのに、愚かにも心臓の高鳴りが止む気配はない。 「良かった……」
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