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羞恥に頬を染めたエリオットの顔を覗き込んだユフィが、とろけたように甘ったるい声で言う。エリオットは息を呑んだ。
――気のせい、気のせい、僕がどきどきしてるからそう聞こえちゃうだけで、ユフィ様は、いつも通り……。
「な、なにが、よかったのでしょう」
「何もかも。今日の君とのやり取り、すべて。エリオットに嫌われることだけは、耐えられないから」
「っ……」
今の言葉も、深い意味なんてない。そもそも『嫌われることだけは』なんて聞き間違いだったのかもしれない。それか言葉のあやだろう。もっと辛いことなんてたくさんあるはずなのだ。たとえば、想い人に嫌われてしまうことに比べたら些末な問題と化すに決まっている。
わかっているのに、この場限りであろうと特別な存在として扱ってもらえることがどうしようもなく嬉しい。
「そ、そんなこと! ユフィ様を嫌うだなんて、あり得るはずないじゃないですか」
「――じゃあ、好き?」
ひゅ、と息が詰まった。
真っすぐにこちらを見つめてくるユフィの口元には、微かな微笑が浮かんでいた。その余裕は崩れない。エリオットのように、右往左往するほど心を乱されているわけではない。きっと彼にとっては普通の、揶揄の混じった雑談でしかないのだ。ただ、少し魔性なだけで。
それでも、そうとわかっていても、痛感させられてしまった。
――ああ……僕は、ユフィ様のことが、恋愛の対象として好きなんだ。
これまでずっと、そんなことが合ってはいけないと押し殺してきた感情。気づいてはいけないと、その本心から目を背け続けてきた。
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