249人が本棚に入れています
本棚に追加
ドアの向こうで、男が何か言っているのが聞こえる。少なくともシェリーではない。
そうだ、まさか出先のシェリーに何かあったのか。それとも、先ほどまで談笑していた隣人たちか。何も暴漢や不審者とは限らないのだ。
エリオットは深呼吸すると、研ぎたての剪定用ハサミを手に戸口へ向かった。二つある鍵を解錠し、おそるおそるドアを開く。
「……、あなたは……」
外套のフードを脱いだ訪問者に眼を丸くする。
濡れ鼠と化して佇んでいたのは、祭殿で見かける中年の使用人だった。この夜道に馬を飛ばして来たのだろうか、ぜえぜえと肩で息をする男の顔は殺伐と――否、悲壮とも、怯えともつかない感情に彩られている。
「……が」
「え?」
「ユフィ様が、突然、お倒れになられました……!」
最初のコメントを投稿しよう!