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毒
移動拠点となる転移魔方陣は、祭殿から少し離れた木立の中にひっそりと存在していた。
「もう目を開いても構いません」
「は、はい」
魔法使いだという男とともに無事に転移したエリオットは、指示通りにゆっくりと目を開いて、はっと息を呑んだ。
しとしとと細雨が降り注ぐ夜の森。
存外に雲が薄いのか、輪郭がぼやけた満月の明かりが仄かに大地を照らし出している。
花が、咲き乱れていた。
元は整備された空き地だったのだろう拠点とその周辺は、ワスレナグサの花園となっていた。雨露に濡れた小さく可憐な青い花が地表一面を覆い、ざわめくように揺れている。
周囲を取り囲む灌(かん)木(ぼく)は、眼にも鮮やかな青の紫陽花(アジサイ)。とうに時期を過ぎたにも関わらず、今が盛りとばかりに狂い咲いている。
一瞬、葉そのものが青いのかと見誤るほどに鈴なりの花をつけた高木は、桐に似た花の形状を見るに紫雲木であるらしい。
「さあ、こちらへ」
エリオットは慌てて男の背を追った。
花畑を抜け、祭殿へと続く道を走る。
――あの背の高い木、モクレンみたいな花が咲いてる。こっちはスイセンみたい、これは牡丹かな……もっと樹木についても勉強しておけばよかった。
その根元には、ムスカリやヒヤシンスが行儀よく立ち並んでいる。どちらも日当たりの悪い木陰には咲かない花だ。
視界の端から端までを埋め尽くす、盛りとする季節を違えた青い花々。
――これは、まさに狂い咲きだ。
水溜まりを踏み抜き、ぱしゃりと外套の裾に泥がはねる。
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