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 そもそも、どうして自分が呼び出されたのだろう。街にもアウレロイヤ家にも医者は居る、お抱えの薬草師もいたはずだ。単なる花屋にすぎない自分に出来ることなんて何もないはずなのに。  答えは出ないまま、最奥部の宿房へ辿り着いてしまう。素朴ながら緻密(ちみつ)な意匠の(ほどこ)された扉をノックすると、すぐに顔なじみの従神官が顔を出した。 「ユフィ様のご容体は⁉」 「……こちらへどうぞ」  エリオットの剣幕(けんまく)に一瞬驚いた顔をしつつ、すぐ中を示してくれた。  クローゼットに机、椅子、ベッドサイドを照らすランプに燭台。最低限の質素な家具が配置された部屋の奥に、天蓋付(てんがいつ)きの大きなベッドがある。蔓草の模様な陽刻されているのみで、装飾そのものはシンプルだ。一見するとこの清貧を絵に描いたような空間にその高価で寝心地の良さそうな寝台は随分と場違いなものに思えた。しかし、そこに横たわる人物に予想がつけば、その違和感もすぐに霧散するだろう。 「ユフィ様っ!」  エリオットはすぐさまベッドへ駆け寄った。  普段は磁器のように柔らか色合いの肌は、ランプの灯火に照らされてなおくすんで血色が失せたままである。その額には汗が滲み、艶やかな髪が数本張り付いていた。まるで絵画のように美しい寝顔だが、その呼吸は荒い。激しく上下する胸が、病状の深刻さを物語っている。 「ユフィ様……」  悲痛な声を絞り出すと、ユフィはゆっくりと目を開いた。宙を泳いだ視線がエリオットをとらえる。疲労の滲んでいた貌(かお)に、はっと驚きが滲んだ。 「エリオット……、どうして、誰が君を……」
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