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「え、ええと……」
一瞬の間の後、エリオットは自分にもわからない、と首を横に振った。
――あれ、そういえば他には誰もいない……お医者さんみたいなおじいさんはいるけど、領主様も、想い人らしきお方も。
辺りを見回したエリオットは狼狽えた。真っ先に駆け付けたのが自分だなんて、ユフィにもその他の縁者にも申し訳なかった。自分が居ていい空間とは思えない。
助けを求めて、自分を呼びに来た魔法使いの方を見る。目が合うが、軽く会釈を返されただけにとどまった。彼も使いに走らされただけで事情をよく知らないのだろう。次に、三人の従神官。それから医者、手伝いのため時折何日か住み込みで働く麓(ふもと)の老女。それぞれの顔を順繰(じゅんぐ)りに見るが、皆、何も言わない。ただ、エリオットを邪険(じゃけん)にするつもりはないことがその視線から伝わってくる。むしろ、何かを期待されているような気さえする。
けれどエリオットには何もできない。魔法が使えるわけでも、知識が豊富なわけでも、愛する人としてユフィを元気づけられるわけでもないのだ。
「すみません、部外者なのに。ユフィ様が大変だと聞いて、何も考えず駆けつけてしまって……」
「…………」
ユフィは、何も答えず周囲の面々を見やった。睨みつけた、と言った方が正しいような、鋭い視線だった。一同に動揺が走る。
エリオットは身の置き場をなくして、肩を縮こまらせた。やはり迷惑だったのだろう。自身が弱っている姿をけして他人に見せたくないという人間は多い。完璧主義であればあるほど、そういう傾向を持つ印象がある。
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