大切

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大切

 律をタクシーに乗せて、家に帰ったら倫が部屋の真ん中に突っ立っていた。  片手にスマホ。  どこに何の連絡をしようとしたのやら。 「倫?」 「帰ろうと思ったんだけど、ここの鍵ないなって……」  倫が俺を見て泣き笑いの顔になる。 「……そっか。留守番、ありがとな」  倫の手からスマホを取り上げて、テーブルに置く。  あぐらをかいて座って、膝の中に倫を引き寄せた。  子どもの頃からの倫の指定席。  律と取り合っていても、倫しか座らせなかったところ。 「律が……」 「うん」 「おれのことバカじゃねえのかって……でも、バカなのは律だ……あいつ、常識なさ過ぎ」 「だな」  こんな常識なしの乱暴なやり方、どこで覚えてきたんだ。  俺も倫も、自分の口からまだ好きだなんて言ってない。  なのに律のお陰でお互いの気持ち、バレバレじゃないか。 「でも、やっぱホントにバカなのはおれなんだ……律は常識わかってないけど、おれはわかってても……わかってんのに……」  倫が言葉を詰まらせる。 「じゃ、俺はもっとバカだな」  腕を倫の身体に回した。  ほら、すっぽり全部包み込めた。  このまま閉じこめることが出来たらいいのに。 「兄ちゃん?」 「俺は、お前を選んだときに、常識より俺の気持ちを取った。お前を困らせるかもなって思ったけど、だからどうしたって、思った」  律に気が付かれているとは思わなかったなあ、と、つぶやく。  ホント。  俺が好きで……俺だけが、倫を好きでいるだけで、良かったんだ。  ちょっと度を超えたブラコン野郎でいるつもりでいたのに。 「おれ、変じゃないの?」 「知ってるか? 変っていうのは普通があるから発生するけど、その普通は時代によって変わるんだぞ」 「屁理屈」 「おお、屁理屈上等だ」  俺の腕に倫がしがみついた。  肩が揺れているところ見ると、何かがツボにはまったらしい。 「ところで、倫?」 「なに?」 「好きだよ」  耳元で囁く。  オニイチャンは知っています。  倫は俺の声が好きだし、耳への刺激に弱い。  ぴくっと反応して固まってしまった倫を、ギュウと抱きしめる。  俺の声に反応したのは倫だけど、倫のかわいらしさに反応したのは、俺。  いやあ、三十代といってもまだ若いね、安心した。 「に、兄ちゃん?」 「ん~?」  倫がもじもじし始める。  お前も男ならわかるだろう?  そこでもじもじするのは、危険が増すだけなんだってば。 「いや……あの、え……マジで?」 「これか? 本気だけど……まあ、ここまで待てたから、後少しなら待てるんじゃねえか。がっついてお前に嫌われる方がイヤだしな」 「兄ちゃんが、おれで……」 「勃ってるって? 勃つに決まってんじゃん、本気で惚れてるんだから。お前、俺をなんだと思ってんの?」  びっくりした顔で、振り向いて倫が俺を見る。  かわいいびっくり顔、いただきました。  そのまま押さえ込んでキスをした。  ついばむように唇をあわせて、舌であわせめを舐めてから、ギュウと押しつける。 「ん~……」  息継ぎをしようとしたところに、舌を差し込んで口腔をなめ回した。 「ぅ……ん、ん…んん……」  じたばたと暴れていたけど、そのまま続けたらシャツを掴んですがりついてきた。  ちゅ、とわざと音を立てて解放したら、フニャフニャの顔でにらんできた。 「……に、ちゃん」 「前言撤回」 「は?」 「お前がかわいいのが悪い。このまま抱く」 「はぇ?」  これは据え膳だろう、と思うので。  倫を抱え上げて寝室に向かいながら、今度律におごる時は、あいつがびっくりするようないいものを食わせてやろうと思った。 <終>
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