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縁談
「――そうか、今回も断ってしまったんだね。夜乃」
「ええ、申し訳ありませんお父さま。決して、相手のかたに不服があったわけではないのですが」
「……まあ、お前がそういうのなら仕方がない。当人が望まぬ結婚は、双方のためにも良くないからね」
15歳の、ある日の夕さり頃。
そう、仄かに微笑み告げるお父さま。尤も、お父さまといっても血縁関係はありません。ですが、彼は諸事情あって、身寄りのなかった私を娘として引き取り大切に育ててくださいました。なので、今や私にとってお父さまであり恩人です。
さて……断ってしまったとは、そんなお父さまが用意してくださった良家の貴人男性との縁談のことで。今しがた申し上げたように、決して相手のかたに不服があったわけではないのですが。
ところで、こういうのは当人の意思に関わらず親の都合で進められてしまう場合も多いらしいのですが……有り難いことに、お父さまは必ず私の意思を尊重してくださいます。そして、だからこそこうして断り続けていることに申し訳なさも覚えてしまうのですが。
それでも、致し方ないとは思っていますが。お父さまの言うように、当人が望まない結婚など相手のかたにも申し訳ないですし。
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