正陰さん

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正陰さん

『――うん、本当に筋が良いね夜乃(よの)ちゃんは。このままだと、僕なんてあっという間に追い越されてしまうね』 『えへへ、ありがと正陰(まさかげ)さん』  八年前――七歳の、ある日のこと。  柔らかな日差しが心地の良い昼下がり。  縁側にて、私の頭を優しく撫でながら柔らかな微笑で話す見目麗しい男性。彼は正陰(まさかげ)さん――私より一回り以上も歳上で、私の姉たる朝乃(あさの)の旦那さまです。  さて、今しがた褒めてくださったのは、私の琴の演奏について。高貴な家柄において、和歌や管弦といった教養は必須ではあるのですが、正陰さんはその中においても一際その知識や技術が優れていると多くのかたがいっています。そして、そのような素晴らしい評価に胡座をかくわけでも引けらかすわけでもなく、こちらがお願いすれば懇切丁寧に教えてくれて、いつも優しく褒めてくれます。そして、そんな彼のことを私はずっと――
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