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「村長さん、マルンが解決できなくっても金貨とくだものとか置いて行ってくれて、太っ腹ね」
何が入っているのかしらと首をかしげながら、先輩は袋を持ち上げてみせる。
中にはきっとリンゴがはいっている。
私の育った村では、お母さんはみな、その家で受け継がれたパイをつくる。それぞれ自分の家ならではのスパイスとか趣向を凝らして。
その家だけの……家族の香り。
今、この小屋の中にはミーニャ先輩の作ってくれた甘煮と私の練った生地のバターの香りが広がっている。
それは部屋の中を漂い、先輩も私もひととき同じ香りをまとう。
「いえ、きっと村長はわからなくってよかったのかもしれませんし」
「それって……誰かをかばったってこと?」
「というより、きっと、ぶん殴ったのが誰であれ、その犯人を捕まえたくは無かったんでしょうね」
どういうこと? お皿を並べる先輩の目がそう言ってる。
「犯行現場の塔の部屋にみんなを呼び集めるって、どう思いました?」
「……暇人ばかり?」
先輩!
「ぎゅうぎゅうづめって、証拠とか残っていても、わからなくなるって思いません?」
「……楽しそうでいいんじゃない?」
負け惜しみですか先輩。
私は考えを言葉にしてまとめるように話し続けた。
塔には階段は一つだけ。逃げることはできそうにないから、きっと犯人は部屋のどこかに隠れていたんじゃないかなぁ。
そして村長はみんなを呼び集めてぎゅうぎゅうのどさくさな状況を作った。
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