ふたりの声援

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 その名前からは危険性を感じるのは難しいだろう。  侵略者は《アクティベイト》、活性化を意味する地球の言語を組織の呼称に使った。だが、それは実態をぼやかすための隠れ蓑だ。  その目的は地球人を活性化させるのでなく、星々に生きる他者を生贄にして自分たちの生活の活性化を計画する組織という、とんでもない意味だった。  二代目首領シュマイザー・ショットはサッカー場を狙い、選手、観客もろとも誘拐した挙句、大胆にもjEATのメンバーと俺に挑戦したきた。ちなみにシュマイザー・ショットという渾名はマスコミが名付け親で、宇宙人のくせに好んで骨董品の短機関銃MP40を使ったからだ。  その意味するところは第二次世界大戦で猛威を振るったナチの武器を使うことで、ヒトラーがユダヤ人を迫害したように絶滅させてやる。という地球人に対する犯行声明だ。  さらに説明すれば、jEATとはJapan・alien・attack・teamの略で、世界をガードする防衛組織AATの日本支部を意味する。  「サイボーグ三浦豪輝(みうらごうき)を出せ! 一対一で勝負して、奴が勝てば、すんなり人質は解放してやる!」  三浦豪輝とは俺のことだ。  俺はJEATに入る前、地球と同盟を組んでくれている異星人にサイボーグに改造されていた。  初めは悩んだが仕方ない。体操選手として金メダルを目指していた俺は、初代首領の攻撃に巻き込まれて命を落とすところだったのだ。  サイボーグにならなければ、本当に死んでいただろう。  話を戻そう、根上隊長は「相手をしてやれ! そのあいだに人質の救助活動に向かう!」と、命令を出してくれた。  我々だって、犯罪者の横暴に手をこまねいていたわけじゃない。  隊長は「シュマイザー・ショットがいくら狡猾でも、瞬時に一万人規模の人質をサッカー場から他に連れ出すのは不可能だ。ならば最近、政府の主導によってサッカー場の地下に建造された核シェルターに監禁しているのではないか」と、相手の計画を見破り、ひそかに探査システムを作動させた。  核戦争、又は大地震に備えた施設なので、避難民の生存を確認するために探査システムが完備しているのだ。  モニターを見た岩崎和子隊員は「見つけました、人質はシェルターの中です」と、確認した。  出入口はロックされているが、我々の技術なら解除するのは可能だ。すぐに塚本副隊長たちが救出に向かった。  「よし、頼むぞ! 豪輝(ごうき)、できるだけ奴らの注意を引き付けるんだ!」と、副隊長は俺の肩を叩いた。  「任しておいてください!」  だが負けた。俺は負けてしまった……。  奴が発射したミサイルが命中して、惨めに俺は地面に這いつくばった。無理もない奴は一本の角を持ったモンスターを用心棒にしていたんだ。  銀色のモンスターの後ろで奴は勝ち誇った。  「わははははははは! やったぞ! それ、とどめだ!」  ショットが手で合図すると、物陰に潜ませていた奴の大勢の部下が攻撃してきた。初めから一対一など考えちゃいない。ショットとはそういう奴だ。  絶体絶命だが、こっちだって孤立無援じゃない。  あいつの部下は根上隊長、南、岸田、加藤隊員が相手をしてくれた。隊長だって初めから信用してなかったんだ。  加藤隊員は「ふん、こんなことだと思ったぜ」  南隊員は「なにが一対一での勝負だ!」  岸田隊員は「貴様らの相手は俺たちがしてやる!」と、大口径の銃とバズーカ砲で連中と応戦してくれた。  所詮は犯罪者集団だ、訓練された先輩たちの敵じゃない、連中はバタバタと倒されていく。   ショットの奴は「くそお! 地球人め!」と、悔しがっていた。  思えば奴がここまで地球人を憎むのは、こいつの父親を俺が倒したからだ。  だが俺を仇というなら、大勢の地球人を犠牲にしてきた奴らもまた仇じゃないか。  初代首領は、我々の警備を分散させるために爆弾で無差別テロを行う悪党だったが、その被害は甚大で、俺が金メダルを目指していた体操選手時代、コーチをしてくれた坂上さん、その妹で恋人だったルミさんも、爆破事件の犠牲者なってしまった……。あの悲しみは今も忘れられない。  つまり、お互いがお互いの仇で、宿敵なんだ。  俺は、「くそお、負けてたまるか!」と、つぶやいた。  サイボーグなんだ。一発や二発のミサイルでは潰れたりしない、怖いのは怪物が吐く炎だった。あの高温ではさすがに人工皮膚に穴が開いてしまう。  俺だって、武器がないわけではなかったが、どうしてか特殊液状金属で製造された万能武器が奴らの前では無力だった。  これは俺を改造した異星人の武器で、剣にもなるし、無数の矢にもなる必殺の武器なんだが、なぜか作動しても無反応だ。驚く俺の姿を見て、ショットは高笑いだ。  「あーはははは! なんで武器が無効化されたかわかるか! このモンスター《ネガ》は貴様の細胞を培養して、凶暴な恐竜の遺伝子と融合させているんだ。お前の武器はネガには通用しない。内部のAIが反応するからな」  そうなんだ。敵に奪われた対策で持ち主しか使えないように安全装置があり、AIでコントロールされいる。万が一、装置が壊されても、持ち主を攻撃しないように予備のバックアップ用のマイクロチップまで搭載されているんだが、敵はシステムが誤作動するように、遺伝子まで悪用したわけだ。  本来なら頼りになる異星人の液状金属の武器も、あえなくモンスターの炎で溶かされてしまった。  「あははははは! 自分の力で立ち向かったらどうだ!」  ショットは勝ち誇った。  (言われなくても、やってやる!)  俺は体に内蔵されている光線銃で始末しようとしたが、どうしたことか光線が途切れて、奴らに届かない。  それどころかバックルに仕掛けられているバリアーも無効化されいる。  奴は勝ち誇った。  「あーはははははは! このモンスターはあらゆる光線を無効化する特殊な粒子を噴射させるんだ! わかるか? なんで原始的なミサイルや弾丸なんか使っているのか? 簡単なことだ。こうすりゃ、お前は撃てないが俺は撃てる! いくらサイボーグでもミサイルを何発も浴びればダメージがないわけがない! これで父の仇が討てるぞ!」  「くそお!」  俺は立ち上がって、ショットに向かって走った。  こうなったら、肉弾戦しかないが、あっちには炎に、銃弾、ミサイル、それに恐竜並みのパワーがある怪物までいるのだ。善戦したものの、俺は勝てず、またも地面に叩きのめされしまった。  その時、奇跡が起きた。  脳震盪を起こして、一瞬だが懐かしいコーチの声とルミさんの声を耳にしたんだ。  「豪輝! なにをしてるんだ! お前が倒されたら地球はどうなるんだ! 立て! 立つんだ!」  「さ、坂上さん?」  それに続いて、ルミさんの声が続いた。  「そうよ、立って! お願い! 豪輝さん!」  「これは夢、いや、幻聴なのか!」  そう、つぶやいた時、坂上さんが叱咤する声が聞こえた「違う! よく聞け、お前を改造した異星人は、俺たちが狙われるのを予測して、保護してくれていたんだ。お前が見た死体はレプリカだ」  「なんですって?」  「俺たちは、テレパシー装置を使ってお前に話しかけている。よく聞け。粒子の発生装置はおそらく、モンスターの角だ。あれを折れば、お前の武器は使えるようになる!」  「わかりました!」  それからルミさんからもアドバイスをくれた。  「気をつけて、あのショットは偽物よ、本体は隠れて用心深く、あなたを見てるわ!」  「なんだって! どこまでも卑怯な奴だ!」  俺は目を覚ました。  立ち上がった俺を見て、ショットは舌打ちをした。  「まだ生きていたのか! しぶとい奴め! ネガ、火を吐いて溶かしてしまえ!」  と、命じたが、一瞬、俺がジャンプするのが早かった。  ネガの攻撃が遅れたのには訳がある。その弱点については根上隊長も気が付いていて、俺が倒れている間に、岸田さんたちに、こう命令していたんだ。  「よく見れば、あの角は網のような繊維で編んだような形状をしている。つまり穴だらけってことだ。おそらく光線を無効化するために、あそこからプリズムのように光を屈折させる粒子を噴出してるんだ。集中攻撃しろ!」  角が硬く、破壊するまでは至らなかったが、ネガの気をそらしてくれたおかげで、命拾いしたわけさ。  もちろん隊長は機関銃で俺を狙うショットの右肩を撃った。  「うっ!」と、奴は愛用のMP40を地面に落とした。  隊長たちの攻撃でひび割れた角を俺の蹴りで折られ、ネガは頭から煙を上げた。粒子を噴霧する装置が故障したんだ。モンスターがひるんだチャンスを俺は見逃さなかった。至近距離から光線を浴びせて倒し、ショットも隊長たちの銃で頭部を貫かれた。  だが、油断はできない。まだ本物がいる。  用心していると、物陰から本物が現れて、俺を光線銃で撃とうとしたが、今度は先に俺が光線を放った。  だが奴は全身鏡のような耐ビーム性能を持つ鎧で身を守っていた。装甲はぶ厚く隊長たちの銃でも歯が立たない。  (くそ!)と、思った瞬間、倒したと思っていたニセモノが起き上がり、俺に抱きついてきた。  迂闊だった、相手がアンドロイドなら、頭に電子頭脳があるとは限らないんだ。  本物のシュマイザー・ショットは「アンドロイド! 自爆せよ!」と、命じて俺を嘲笑い。  「はははは! これでこの周辺一キロは灰になる。仲間もろとも吹き飛べ!」  そう言いながら鎧から翼を出した。  俺を羽交い絞めにしたニセモノがカウントをとりだした。  「爆破三十秒前,29,28……」  「しまった! コーチ! ルミさん、隊長! みんなすまない!」と、悔やんでいると、隊長が撃った銃弾がニセモノの右腕を吹き飛ばしてくれた。  隊長が俺に命じた。  「奴に忘れ物を届けてやれ!」  俺はカウントを続けるアンドロイドを持ち上げると、大空へ逃げていく奴をジェット噴射で追った。  そして、猛スピードで追いつくと、渾身の力を込めて《忘れ物》を投げつけてやった。  「あ! ぎゃあああああ!」  本物は悲鳴を上げたが、もう手遅れだ。アンドロイドがぶつかった瞬間、閃光が輝き、ナチにあこがれる風変わりな異星人は巨大な炎に包まれた。  副隊長の救出作戦も成功に終わり、人質にされた人々はぞろぞろと地上に出てくる。  「これで、地球は救われた」  と、安堵しているときだった。  金色の円盤が、サッカー場の上空に停止すると、二人の人間が俺の前に転送された。  坂上コーチとルミさんだ。  二人は俺に「ただいま」と、言ってくれたが、地上に着陸した俺は両手で顔を隠した。  (見られたくない姿を恋人に見せてしまった)  今まで大勢の人たちを助けてきたが、みんな例外なく人間でない俺に嫌悪感を抱き、笑顔で礼を言っても、震えていたり、露骨に顔をひきつらせていたりしていたんだ。連中からの洗脳が解けた親友を救助した時、俺を見て「化け物だぁ!」と取り乱すことさえあった。  (きっとルミさんも……)  そんな俺の手をもって、ルミさんは「どうしたの、豪輝さん? どうして、そんなふうになってしまうの?」  と、言いながら手を俺の顔から離した。  (ルミさん……)  俺は目を開いた。  彼女の表情が見えた。ルミさんの表情は恐怖で歪んでいなければ、蔑むような目で見つめてもいなかった。  ただルミさんは悲しげに泣いていた。  その表情がナイフのように俺の胸を貫いた。改造された時、もう他人にさせてはいけないと誓った顔だったからだ。                了                 
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