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2
スコールのような激しい夕立が来て、雷鳴が轟く。
その一つが、裏の丘に落ちて家の中まで閃光が走った。
「うわっ」
部屋に籠っていた優人の声が、リビングでお茶を飲んでいた凛の耳にも届いた。
彼女も危うくティーカップを叩き落としそうになりながら耳に手をやっていた。
「今の、すぐ近くに落ちたみたいね。
2階まで届く大声で言ったが、返事がなかった。
一瞬停電になったようだが、すぐに灯りがついた」
10分ほどで嵐が過ぎ、雨音が止んだが外は暗いままである。
「ちょっと、様子を見てくる」
階段を降りながら兄が言った。
凜も椅子から立ち上がったが、手で制して、
「お前は夕飯の支度でもしていてくれ」
と言って出て行った。
丘の上に、わずかな光が差していた。
雲の切れ間から、一筋、まるで空から切り分けたように。
丘の上に2人の人影を認めた優人は、目を凝らしてそちらへと登っていく。
数えきれないほど行き来した道だが、うちの兄妹以外の人が来たのは初めてだった。
見たこともないほど大きな斧を担いだ、髭面の大男が、ツノを生やした兜の下から鋭い眼光をこちらに投げかけた。
「おい、人間が来るぞ」
大男は、傍らにすらりと立つ、黒衣に身を包んだ髪の長い影の方へ言った。
家の玄関を出た凜は、丘の上に大男と痩せた女、そして兄の影が何か話している様子を認めた。
「誰かしら」
普段と違う光景に、足を止めて丘の方をしばらく見ていたが、意を決して近づいて行った。
足元はびしょびしょに濡れていて、ところどころ水が淀んで泥水を溜めている。
水たまりを器用に避けながら登っていくと、突然目も眩むほどの光に包まれた。
硬く目を閉じ、両手を前にかざして光を遮ろうとしたまま立ち止まる。
再び目を開けると、3つの人影は消えていた ───
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