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 スコールのような激しい夕立が来て、雷鳴が(とどろ)く。  その一つが、裏の丘に落ちて家の中まで閃光が走った。 「うわっ」  部屋に(こも)っていた優人の声が、リビングでお茶を飲んでいた凛の耳にも届いた。  彼女も危うくティーカップを叩き落としそうになりながら耳に手をやっていた。 「今の、すぐ近くに落ちたみたいね。  2階まで届く大声で言ったが、返事がなかった。  一瞬停電になったようだが、すぐに灯りがついた」  10分ほどで嵐が過ぎ、雨音が止んだが外は暗いままである。 「ちょっと、様子を見てくる」  階段を降りながら兄が言った。  凜も椅子から立ち上がったが、手で制して、 「お前は夕飯の支度でもしていてくれ」  と言って出て行った。  丘の上に、わずかな光が差していた。  雲の切れ間から、一筋、まるで空から切り分けたように。  丘の上に2人の人影を認めた優人は、目を凝らしてそちらへと登っていく。  数えきれないほど行き来した道だが、うちの兄妹以外の人が来たのは初めてだった。  見たこともないほど大きな斧を担いだ、髭面(ひげづら)の大男が、ツノを生やした(かぶと)の下から鋭い眼光をこちらに投げかけた。 「おい、人間が来るぞ」  大男は、傍らにすらりと立つ、黒衣に身を包んだ髪の長い影の方へ言った。  家の玄関を出た凜は、丘の上に大男と痩せた女、そして兄の影が何か話している様子を認めた。 「誰かしら」  普段と違う光景に、足を止めて丘の方をしばらく見ていたが、意を決して近づいて行った。  足元はびしょびしょに濡れていて、ところどころ水が淀んで泥水を溜めている。  水たまりを器用に避けながら登っていくと、突然目も眩むほどの光に包まれた。  硬く目を閉じ、両手を前にかざして光を(さえぎ)ろうとしたまま立ち止まる。   再び目を開けると、3つの人影は消えていた ───
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