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3
嵐の日に兄が消息を絶ってから、1年が過ぎた。
17歳になった凜は、独りでリビングの食卓に着いた。
誰もいない家には、扇風機の音と蝉の声が、やけに大きく響いた。
あの日からしばらくは、心当たりを探したりもしたが、今は心静かに毎日を粛々と過ごしている。
成績優秀だった兄は、妹によく勉強を教えてくれた。
口数は少ないが、頼りになる兄だった。
家の中は閑散としたものだったが、凛の心の奥底には確信があった。
兄は生きている。
血を分けた肉親だからこそ、感じるのだ。
キッチンのカウンターには、兄の写真と共にラピスラズリのような深い青の宝石が鎮座していた。
この石は、2年前に初めて祠で石を見つけたときに、兄と交換したものだった。
兄と妹は、同じ日にたまたま祠の前を通り、それぞれの石を見つけた。
大きな兄の石は海のように深い青。
小振りな妹の石は透き通るような赤だった。
兄の机の引き出しからは、凛の石を含めて、すべてのコレクションが消えていた。
つまり、兄が残した石は、始めに見つけたこの一つだけなのだった。
高校は夏休みに入り、お盆で誰も友達がつかまらない日は、とてもゆっくりと時が流れた。
兄に悪いと思いながらも、1年も留守にした部屋を片付けようと思い立つ。
そして、机の引き出しの奥にしまってあった日記帳を見つけたのだった。
凜は、食事を終えると、傍らに置いてあった日記帳をめくり始めた。
それは、裏の祠で石を見つけてから、毎日どんな石を、どんな状況で持ち帰ったのかを詳細に記したものだった。
半年ほど、単調な記録が続いたある日、気になる書き込みがあった。
「この石は、もしかすると人間の魂なのかもしれない ───」
思わず読み上げた凛の心は、穏やかに波立った。
魂を集めている ───
なぜそう思うのかはわからないが、兄の力強い石と、自分自身の小さな石。
それが自分の魂だとしたら、今石はどうなっているのだろうか。
物思いに耽っていた耳に、突然雷鳴が轟いた。
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