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 スコールのような雨と強い風、そして雷鳴は段々と近づいてくる。  大きな雨粒が窓を叩き、木々がうなりを上げ、外は夜のように暗くなった。  兄が消息を絶った日と同じ光景に、胸騒ぎを感じた凜は、兄の石を手に取ると握りしめた。  そして、またしても裏山に雷が落ちる。  耳をつんざく轟音(ごうおん)に一瞬飛び上がった。  雨が小降りになってきた頃、ゆっくりと玄関のドアを開けた。  水たまりを避けながら大股で丘を登っていく。  祠を視界に捉えたとき、2人の見知らぬ人影を認めた。  大きな斧を担いだバイキングのような大男と、スラリとしたローブを(まと)った女性。  まさに、1年前に兄が消えた日と同じだった。  近づいていくと、次第にしっかりと視界に捉えた2人は、こちらに視線を向けていた。 「あの ───」  兄の消息を知っているはず。  気持ちは()いたが、何を言えばいいのか分からなくなった。  口をパクパクしたまま、突っ立っていると女の方が口を開いた。 「私は魔女・キルケ。  ユウト様が、あんたを気にかけていてね。  様子を見てきて欲しいと命じられたのだよ ───」  男の方は、斧を祠に立てかけて髭面をクシャクシャにしながら笑顔を作り、 「ギムリだ。  人は俺を、ドワーフ王と呼ぶ。  あんたはユウト様の妹さんだな」  凜は「あー」とか「うー」とか言葉にならない呻きを口にするばかりで、目を丸くして手をヒラヒラ動かすばかりである。 「説明するより、連れていった方が早いんじゃないかしら」 「うむ。  どうかな、お嬢さん。  俺たちと一緒に来るなら、ユウト様に会わせてやろう。  どうするかは、自分で決めたらいい」  ポーチに入れていた石を取り出した凜は、じっと見つめた。  吸い込まれそうな青い宝石は、いつもより黒ずんでいるように見えた。 「それは ───」  ギムリは何かを言おうとしたが、キルケが手で制した。 「わ ───  私、行き、ます」  喉の奥から絞り出すように、やっとの思いで口にした。  次の瞬間、白い閃光が辺りを包み、地面が消えて落ちていく感覚に襲われた ───
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