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 全身がグニャリと歪む感覚が消え去ると、足元に接地感が戻ってきた。  危うくよろけそうになった凜を、ギムリの丸太のような腕が受け止めた。 「おっと、大丈夫ですかな」  ニコリとして見せたのは束の間、すぐに周りの景色を見て肩をすくめた。 「本当に、来る価値があったかしらね ───」  数歩踏み出したキルケは、煙を上げている街並みに眉根を寄せた。 「これは、大地震でもあったのですか」  おずおずと、凜が尋ねた。  だが2人は、何も答えなかった。 「とにかく、あなたの目で確かめてごらんなさい。  この惨状を ───」  石造りの店が崩れ、呆然として立ち尽くす人。  暗い路地に座り込んですすり泣く人。  担架に乗せられた人が運ばれていく。  街の中心に、鐘楼(しょうろう)が建っていた。  広場には、たくさんのけが人が寝かされている。  石畳(いしだたみ)の通りを歩いて行くと、廃墟(はいきょ)と化しつつある街並は終わった。  草原を少し歩いて行くと、木立の陰から男が現れた。  黒いローブに身を包み、フードで頭を隠していた。  ドワーフ王と魔女は、その男の後ろに回ると片膝をついてこちらを見据えた。 「凜 ───」  聞き覚えのある、懐かしい声に胸が詰まりそうになった。  その男は、(うつむ)いて何事か逡巡しているようだった。  空は厚い雲で覆われ、今にも降り出しそうな暗さである。  改めて周囲に目をやると、ところどころが焼け()げ、大地には大穴があちこちに口を開けていた。 「凜よ、お前には、見て欲しくなかった。  兄の、成れの果てを ───」 「兄さん」  フードを片手で跳ね上げると、懐かしい顔が現れたのだった。  顔を伏せたまま、キルケが言った。 「ここは、エスペランサ王国。  廃墟と化した街は、永遠の都と言われたエテルノでございます、リン様」
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