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5
全身がグニャリと歪む感覚が消え去ると、足元に接地感が戻ってきた。
危うくよろけそうになった凜を、ギムリの丸太のような腕が受け止めた。
「おっと、大丈夫ですかな」
ニコリとして見せたのは束の間、すぐに周りの景色を見て肩をすくめた。
「本当に、来る価値があったかしらね ───」
数歩踏み出したキルケは、煙を上げている街並みに眉根を寄せた。
「これは、大地震でもあったのですか」
おずおずと、凜が尋ねた。
だが2人は、何も答えなかった。
「とにかく、あなたの目で確かめてごらんなさい。
この惨状を ───」
石造りの店が崩れ、呆然として立ち尽くす人。
暗い路地に座り込んですすり泣く人。
担架に乗せられた人が運ばれていく。
街の中心に、鐘楼が建っていた。
広場には、たくさんのけが人が寝かされている。
石畳の通りを歩いて行くと、廃墟と化しつつある街並は終わった。
草原を少し歩いて行くと、木立の陰から男が現れた。
黒いローブに身を包み、フードで頭を隠していた。
ドワーフ王と魔女は、その男の後ろに回ると片膝をついてこちらを見据えた。
「凜 ───」
聞き覚えのある、懐かしい声に胸が詰まりそうになった。
その男は、俯いて何事か逡巡しているようだった。
空は厚い雲で覆われ、今にも降り出しそうな暗さである。
改めて周囲に目をやると、ところどころが焼け焦げ、大地には大穴があちこちに口を開けていた。
「凜よ、お前には、見て欲しくなかった。
兄の、成れの果てを ───」
「兄さん」
フードを片手で跳ね上げると、懐かしい顔が現れたのだった。
顔を伏せたまま、キルケが言った。
「ここは、エスペランサ王国。
廃墟と化した街は、永遠の都と言われたエテルノでございます、リン様」
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