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 1年前 ───  雷鳴と共に現れたドワーフ王と魔女は、丘を登って来る若者を認めた。 「私たちは、優れた知恵を持った王の中の王を探しに来ました」 「俺たちの国には、どこを探しても愚か者しかいない。  皆、己の欲望を満たすためだけに生きる、(けだもの)同然の、人の皮を(かぶ)った魔物たちだ」  優人は、握りしめていた数個の星の欠片(かけら)を開いて見せた。  2人は大仰(おおぎょう)(うなず)き、目を輝かせた。 「おお、これこそ、人の上に立つ者の証」 「魂を掌握(しょうあく)し、世界を導く王の元に、星の欠片が集まったのです」  そして濡れた地面に膝をついた2人は、優人と共に光に包まれ、消えて行った。  ついた所は、隠された都・シャンバラだった。  古代の遺跡の神殿に、異形のモンスターや戦士が守備を固め、ユウトが現れるのを待っていたかのように、地に膝をついて拝礼した。  小高い丘の上には天を突くような魔王城が(そび)え立っている。  玉座へと導かれたユウトは、おびただしい星の欠片の山の(かたわ)らにある王の席に着いたのだった。  それからというもの、昼間は玉座で来客を迎え、夜は宴会に明けくれる毎日が続く。  勉強も、仕事もする必要はなく、声をかければ何でも手に入れることができた。  この異世界では、何もしなくても生きていける。  そして、周囲からは敬意を持って受け入れられた。  そんなある日、 「王、ユウト様、勇者が攻めて参りました!」  斥候(せっこう)らしき兵が息せききって報告した。 「さあ、お逃げください、ここは私たちが食い止めます」  魔女・キルケが詠唱を始めると、辺りが薄暗くなった。  ドワーフ王・ギムリは特大の戦斧を構えて外を(にら)()えた。 「我が名はガイウス・ドラゴンスレイヤー!  魔王ユウトめ、国民を苦しめる非道の僭主(せんしゅ)の首を取りに来たぞ。  尋常に勝負しろ!」  威勢のいい声を背中に聞きながら、ユウトは必死に山を駆け降りた。  魔王城は、魔法の爆音と共に崩れ、ガラガラと大小の岩が転がり落ちてきた。  力を振り絞って走るユウトの周りには、誰もいなくなっていた。  街から抜け、森に身を隠そうとしたときだった。 「見つけたぞ、こっちだ!」  背中に羽が生えた人間が、空から一直線に飛び掛かってきた。  街の方からは先ほどの勇者と魔法使いらしき女が駆けてくる。  逃げきれないと見ると、振り向いて3人と|対峙《》したユウトは、平静を装いながら頭をフル回転させた。 「我が(しもべ)を倒し、よくぞここまで来た。  名を聞こう」 「勇者・ガイウス・ドラゴンスレイヤー」 「魔法使い・ウィッチ・オブ・ジ・イースト」 「妖精王・ルナ・クイーン・オブ・フェアリーズ」  今にも襲いかかろうとする3人へ向けて、ユウトは咄嗟(とっさ)に両手を広げて突き出した。
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