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 固く目を閉じ、ユウトは死を覚悟した。  どれくらい経っただろうか、そのまま3人は動かなくなってしまった。  手の中には3つの星の欠片が収まっており、どの石にも無数のヒビが入っていた。  そして勇者たちは崩れ落ち、息絶えてしまったのだった。 「ユウト様!」  ギムリとキルケは傷を負い、血を(したた)らせながら走り寄った。 「心配いらんよ。  この通りだ」  地面に()した勇者たちを目で示すと、星の欠片を投げ捨てた。  魔王城へ戻ったユウトは、瓦礫(がれき)と化した有様に激怒した。 「おのれ、許さぬぞ」  玉座の周囲に集めてあった星の欠片を叩き割り、すべて粉々にしてしまったのだった。  その日から、ユウトが率いる魔王軍は、近隣諸国に攻め入り、略奪と破壊、殺戮の限りを尽くした。  まさにこの世の地獄絵図が描かれ、阿鼻叫喚(あびきょうかん)の有様だった。  手に入れた星の欠片を、ことごとく破壊し野に火を放った。  街には孤児が(あふ)れ、店から商人が焼け出され、食料さえも手に入らなくなる。  仕事を失った民衆が略奪を始め、盗賊が跋扈(ばっこ)するようになる。  田畑は踏み荒らされ、国はあっという間に荒廃してしまった。 「王様、少しでいいのです。  食べ物を私たちに分けてはいただけませんか」  小さな子どもが(すが)りついてきた。  その子を蹴散らし、ユウトは鬼と化した。 「食料を集めろ、大人は奴隷にする。  連れていけ」  人の道を外れた行為だと、ユウトも分かっていた。  子どもたちを路頭に迷わせるのは、大人の欲望の成せる業である。  身勝手な振る舞いが、不幸な子どもを生みだし、国を荒れさせる。  嫌というほど噛みしめてきた屈辱の生活から、抜け出した先には大人と同じことをする自分がいた。  星の欠片は、産まれては消え、手に入れた光を砕き、魂を天に返す。  これが人間だ。  俺は、ただの人間だ。  ユウトの胸には、ポッカリと暗い穴が空いていた。
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