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8
「魔法も剣の扱いもできない俺には、星の欠片以外に戦う術がなかった」
シニカルな笑いを浮かべて、ユウトは空を見上げた。
「やっぱり、お兄ちゃんが言う通り、宝石は人の魂だったのね ───」
夜空の星は、元の世界と変わらなかった。
東の空にさそり座の心臓、アンタレスが妖しく光る。
不意に、流れ星が幾筋も落ちていった。
「また、星の欠片が生まれた」
ユウトの手には、鮮やかな光を放つ石が握られていた。
それらを投げ捨てると、懐からもう一つ取り出した。
「これは ───」
ゆっくりと一本ずつ指を開くと、透き通ったピンクの石が、姿を現した。
「この石は、どんな石よりも美しく、愛おしかった」
ゆっくりとリンに向かって歩を進め、両手で包むようにして手渡した。
「お兄ちゃん」
大きく頭を振ったユウトは、真っ直ぐに妹を見つめる。
「俺が生きている限り、この世界の住人は幸せになれない。
剣と魔法のファンタジーの国、エスペランサ王国に平和をもたらすために、俺は死ぬのさ。
さあ、魔王に誇り高き死をもたらせ、リンよ」
双眸を固く閉じ、両手を広げた兄の姿は、十字架の磔刑のようだった。
ポーチに自分の石と兄の石を、大切にしまい込んだリンは、キルケに命じた。
「魔王ユウトの妹の名において命ずる。
兄を、魔王を雷と共に、現世へ戻したまえ ───」
コクリと頷いたキルケは右手を天に伸ばした。
暗い雲が空を覆い、激しい雨と風、そして稲妻が幾筋も走り、辺りを照らしたかと思うと、4つの人影は消え去った。
嵐はすぐに去り、星空が戻ってきた。
月は明るく照らし、巨木がうねるように枝を伸ばし、雨の雫が葉を伝い落ちたのだった。
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