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 東京の専門学校で、プログラミングを学んだ優人はSEとして仕事を始めていた。  家賃を抑えるために、相変わらず凛と2人暮らしをして、忙しい毎日を送る。  ビジネス系の専門学校へ通う妹の方も、資格を取るために夜遅くまで勉強を続けていた。  故郷の裏庭の祠は、あれ以来星の欠片を見かけなくなった。 「あれが夢だったとか、異世界のことだから関係ないだとか言うつもりはないが、死ぬ気になれば何でもできる」  と何かを振っ切ったように仕事に打ち込む兄は、以前よりも輝いて見えた。  失踪していた父から学費を半分ずつ出してもらい、残りは奨学金を借りた。  家族がバラバラになった日から、噛み合わなくなっていた歯車が、星の欠片のお陰で回りだしたのかも知れない。  薄いピンクの、透き通るような石。  深く青い大きな石。  2つの石が、窓からの光に照らされて、ひときわ気高く輝き、鮮やかな色に(きら)めく。  部屋の片隅にヒノキの台を設え、輝く石は鎮座していた。  エスペランサ王国の魔王城は解体された。  新たに城を建設し、ギムリが崩壊した街の再建に乗り出した。 「どうかしら、玉座の座り心地は」  口元を歪めてキルケが言った。 「やめてくれ、王様なんて柄じゃないぜ、俺は」 「あら、ドワーフ王なんて呼ばれてるでしょうに」 「戦斧を振り回して戦ってた頃の呼び名だぜ、あれは」 「ユウト様とリン様は、エスペランサ王国を一歩前に進めるために現れたのかも知れないわね」  長い後ろ髪をたくし上げ、キルケは外に視線を投げた。  星屑は、どこまでも広がり、流れ星がまた落ちていく。  さそり座の心臓は、脈打つように力強く(またた)いていた。 了 この物語はフィクションです
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