おかえり

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もう夏も終わりなのかと思うほどに涼しい風を頬に感じながら、私はある家のインターホンの前で立ち尽くしていた。 閑静な住宅街にある二階建ての一軒家。 決して大きくはないが、どの部屋も日当たりと風通しがよかった。 門扉から見える庭は芝生が綺麗に整えられていて、毎年秋になると葛の花から甘い香りが漂い それを嗅ぐたびに「あぁ、もう秋なんだ」と季節の移ろいを感じたのを今でもよく覚えている。 木製の表札に「小森」と書かれた横に「白井沙和」と綺麗な筆跡で書かれた文字は薄くなりつつも辛うじてそこに残っていた。 それをちらりと見て、ゆっくりと目を伏せる。 ここが私の住んでいた家。 そして、お父さんとお母さんと一緒に過ごした場所。 そう認識した途端、心臓が大きく脈打ち始めた。 「大丈夫……大丈夫……」 胸に手を当てながら、何度も自分にそう言い聞かせる。 私はもうあの頃の私とは違う。 もう何もできない子供じゃない。 もう守られるだけの弱い存在じゃない。 だから、大丈夫。 そう自分に言い聞かせて、ゆっくりとインターホンのボタンに手を伸ばした。
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