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13.ルフォルの先祖返り
私にも多少だけれど、先祖返りはある。レオの差し出した果物を口にしたところで、庭から悲鳴が聞こえた。果物を摘まんだレオの指もぺろりと舐める。
「あら、もう到着したの? 早いわね」
食堂から庭へ続く扉が乱暴に開き、派手な音を立ててガラスが割れた。
「シャル、きちんと躾なさい」
「ごめんなさい、お父様。嬉し過ぎて勢い余ってしまったんですって。リュシーも謝っているわ」
能力で聞き取った謝罪を伝え、割れたガラス扉から鼻先を突っ込む白い獣の頭を撫でる。そうよ、これが私の能力……動物に好かれるの。可愛いリュシーは甘えるように鼻を鳴らした。到着したよと嬉しそうな声がして、止める前にガラスを割った獣は大きかった。
「少し残してしまったわ、ごめんなさいね」
両親に謝り、給仕の侍女が深く一礼するのを確認して庭へ出た。
「シャル、食事は終わったの?」
「セレーヌ叔母様、この子が終わりにしてしまいましたわ」
散歩中にリュシーを見かけた叔母様が駆け付け、庭の大木ほどある獣を見上げる。こうしてみると狼に似ているが、背中に羽がある。広げると蝙蝠に似た被膜があった。羽毛ではないが、全身はもふもふとした分厚い毛皮に覆われる。
この大陸に同種はいないが、隣大陸には数匹確認されている。古代生物の一種だった。特徴はとにかく巨大で、姿かたちが統一されていないこと。生まれる前に主人と定めた者が望む姿で生まれた。かつてはドラゴンと呼ばれた種族だ。
一般的にドラゴンは鱗に覆われている。絵本や絵画に残るドラゴンのイメージが影響するのだろう。幼かった私の望んだ姿は、柔らかな毛皮と犬の姿だった。そのため混ざって、今のような姿で生まれたらしい。
「駆け付けてくれたの?」
大きく尻尾が左右に揺れ、庭に小さな竜巻が出来る。伏せをして撫でろと鼻を突き出すリュシーに、私は両手を広げて抱き着いた。全身を使って撫でていると、叔母様も横で毛皮に埋もれている。
「やっぱりいいわ。素敵ね、そんな能力が私も欲しかったわ」
ルフォルの直系であっても、能力が出ない人もいる。逆に傍流となった公爵家の次男であるレオに出た例もあった。望んだから得られる能力ではないが、幼い頃は大量の動物に懐かれて大変だった。一概に素晴らしいとは言い難い。
後ろから追いかけたレオが、機嫌悪そうに眉根を寄せる。主人を独占しようとする犬みたい。レオが私に懐いたのも、私がそれを許したのも、もしかしたら犬っぽいから?
「一人で来たの? コリンヌはどうしたのよ」
私の質問に、リュシーはそっと目を逸らした。答えず誤魔化そうと転がり、お腹をみせて甘える。庭の花壇が台無しね。後で庭師に詫びなくては……。
「っ、はあはあ……お嬢、様。ただいま……到着っいた、しまし、た」
息切れを隠し切れず、庭先で挨拶をするのは女性騎士だ。侍女では世話が難しく、彼女を任命したのだけれど。草に塗れ、泥がついた騎士服を見て、おおよその状況が判断できた。
「リュシー、あなた……途中でコリンヌを落としたのね?」
疑問形だが、確証を持って突きつけた。
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