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29.本国の不可解な動き
悪役なのは理解しているの。私達はルフォルの民で、この大陸をかつて支配した一族の末裔だった。けれど、別大陸に移動し本拠地を移した。こちらの大陸で繁栄した民にとって、私達は外来種なのよ。
愚かな王とはいえ、国のトップを排除して乗っ取る。民の生活水準が上がったとしても、やはり外からの侵略者である事実は変わらないわ。それでも、私達に止まるという選択肢はなかった。
伯父様は必死に隠して誤魔化そうとするが、王族としての教育を受けた叔母様やお父様が気づかないとでも? 先祖の遺跡が欲しいだけなら、大公家を置いた時点で果たしている。その遺跡に何かあり、伯父様はその何かを欲している。
伝説のドラゴンが集めた宝のように、金銀や宝石が埋まっているのか。世界を滅ぼす武器が隠されているのか。はたまた、かつて存在したと謳われる魔法の書が埋まっている? 何にしても、親族を裏切り苦しめてまで得る価値はない。
ここに関しては、お父様も私も叔母さまも意見が一致していた。ルフォルから同行した貴族も、この点は譲らない。大切なのは現在を生きる私達の幸せだった。過去の遺跡や遺産のために、苦労する未来ではない。
「レオ、本国の動きは?」
「最近、妙な船を造っているらしい。必要以上に耐久性が高く、重量に耐える浮力を備えた貨物船……不思議な倉庫がある」
本国の公爵家出身のレオは、養子に出た後も実兄と連絡を取り合っている。セレーヌ叔母様の悲恋に心底同情した兄トリスタンは、本国の情報を定期的に提供してくれた。
今回はわざわざ商船に載せて、図面らしき絵を届けさせた。その図を広げ、レオは考え込む。大きな船だが、中央部分に不自然な倉庫がある。浮力や安定性を考えるなら、船底や左右前後にバランスよく積む荷物が、なぜか中央に。
ここは動力となる魔法道具が固定される場所だった。過去の遺産として残っているのは、僅か八個のみ。その一つを載せるとしたら、どの船を壊すのか。数にちなんだ名を与えられた船は、どれもまだ十年は稼働するだろう。
「お父様と共有しましょう」
「ああ」
侍従達に預けず、レオ自ら運ぶために離れる。残された私は、書斎のような一室にお茶を用意させた。この部屋は兄であり婚約者となったレオの部屋と、新しく私に与えられた私室の間にある。双方から扉で行き来できるが、夜は寝ずの番がついた。
大陸間を移動するような航海には、魔法道具の存在が欠かせない。海水を真水にする魔法道具も、推進力を発生させる魔法道具も、数に限りがあった。だから圧倒的な戦力と国力差があるにも関わらず、本国はこちらの大陸に攻め込めない。
数回に分けて往復し、兵力を移動させればさすがにバレる。だがこちらに存在する貴族や私兵だけで戦うのは、大義名分がない状態では危険だった。それゆえの政略結婚だ。二世代にわたり縁を繋ぐことで、ヴァレス聖王国を崩そうとした。
作戦は悪くないが、あまりに杜撰で穴だらけ。その上、結果を運に任せる部分が大きすぎる。支援をしなかったのも、愚かだわ。考えながらお茶を口元に運び、熱くて手がびくりと震えた。火傷しちゃったわ。
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