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31.先に発掘したらどうかしら
本国が遠いことで攻め込まれずに済む反面、どうしても情報が遅くなる。魔法道具に通信機能があれば便利だけれど、逆に利用されちゃうわね。
ヴァレス聖王国は王と王子を失い、事実上崩壊している。名前だけ残しているのは、本国に気取られないためだった。こちらの準備が済むまで、伯父様には大人しくしていてもらわないとね。
「シャル、新しい船だが……やはり情報が足りない。誰か偵察に出すか」
「いいえ。気取られたらマズいから、今は我慢ね」
レオに動かないよう伝えた。現在ある八隻の船の魔法道具を外す様子はなく、けれど帆や人力が原動力と思えない船を造る。曳航して攻撃するつもりかしら。
首を傾げる私に、お父様が思わぬ提案をした。
「兄上の欲しがった遺跡を、発掘させようと思う」
我が大公家の領地内に確保はしたが、本国からの指示はなかった。そのため、単に確保しただけで何もしていない。そこに秘密があるのでは? とお父様は考えたみたい。
ただの遺跡なら、こんなに苦労して保全する必要があるか。王族二人の姫を犠牲にしてまで? それくらいなら、攻め込んで奪った方が早いのに。もちろん壊されない前提が必要だが、父もこの部分に違和感を覚えた。
「魔法道具とまでいかなくとも、何か出てくるはずだ」
はっとした。魔法道具が埋まっている可能性もあるのね。新造船の動力が、このル・フォール大公領の遺跡に眠っているとしたら。私達が確保した港まで、新造船を曳航するだけでいい。魔法道具を掘り出し、設置すれば帰りは自力で航行できた。
お父様は冗談めかしたけれど、可能性は大きい。伯父様はロマンチストではなく、現実主義者だった。そんな男が欲しがる何か……船の動力でなくとも、価値のある魔法道具があるかもしれない。本国に残っている資料に、その存在が明記されていたなら。
自分より支持が高かった弟である父を離れた大陸に押しやる口実になる。妹であるセレスティーヌ叔母様を犠牲にして……得る価値があると判断した。
「掘ってみましょう。何もなくて元々だもの」
お父様はにやりと笑った。その表情から、何か遺されていると確証があるのだろう。本国に先んじて手に入れ、利用することで勝率が高まる。
「一族の者は興奮状態だ。すぐに作業にかかりたいと、嘆願されてしまった」
あら、私達より先に伯爵達に話したのね。反対するはずもないのに、後回しだなんて。
「お父様、実は……その、私達、昨夜……」
思わしげに言葉を濁し、義兄レオポルドと見つめ合う。頬を赤く染める演技に、悪ノリしたレオが腰に腕を回した。お父様が焦った様子でレオに詰め寄る。
「手を出すなと言っただろう!」
「お父様、レオを責めないで。何もなかったわ。この程度の演技で踊らないでください。先ほどの仕返しです」
お父様譲りの悪い笑顔を向ければ、がくりと項垂れた。これに懲りたら、私達を後回しになさるのはやめていただきたいわ。
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