33.王族の義務ではないのにね

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33.王族の義務ではないのにね

 伯父様とお父様、どちらに才能があるかと問われれば……正直なところ、さほど変わらない。ただ人望となれば、お父様一択だった。私はあまり親しくないけれど、伯父様は暗いのよね。  伯父様は僻んで、お父様を過大評価している。何でも弟の方が出来て、自分より上手だとね。でも私からみて、才能の差はほとんど感じなかった。それどころか、努力の量から判断すれば伯父様の方が恵まれている。  第二王子だったお父様は、勉強も剣術もすべて二番目だった。与えられる教育水準が違うの。兄を超えないよう、お祖父様なりの気遣いだったのかも。さらりと表面を履修して終わる伯父様と、努力して差を詰めるお父様。  追いかけられる立場ゆえに、お父様を過大評価して遠ざけた。哀れな人なのだとお父様は言うけれど、私にしたら臆病なだけだわ。弟が優秀でも、第一王子である伯父様が跡取りなのは確定なのに。貴族もそれで納得していた。  だから問題なく即位できたのよ。それが、叔母様を遠ざける決断をした辺りから、雲行きが怪しくなる。お父様はお母様と相談し、本国を離れる決断をした。伯父様をこれ以上追い詰めれば、国を分断しての騒動に発展する。民のために内紛は避けるべきだ。  決断の意味は理解できるの。でもね、悪化させただけだわ。 「……お前ならどうした?」 「私なら、きっちり伯父様と話をつけます。どんなに嫌がられても、引いたりしません」  お父様は渋い顔で「そうか」と呟いた。危険回避のために一時撤退はしても、逃げ回る選択肢はないわ。後になればなるほど、事態は悪化するんだもの。今回の件でご理解いただけたと思うけれど。 「兄上は俺が幼い頃は優しかったのだ。勉強を教えてもらったこともある。だが……」 「その優しさは、立場が上だったからでしょう。少なくとも、私から見た伯父様は玉座に取り憑かれた亡霊です」  お父様が気に入らないなら、直接対決するべきだった。恋人がいるセレスティーヌ叔母様を、別の男に嫁がせるなんて卑怯な手段を用いずに。正々堂々、お父様に出て行けと言えば済んだの。  政略結婚させられる立場だから、私は伯父様を許さない。どんな言い訳を並べたところで、弱い立場の叔母様を不幸にした二十年の重さに勝てないわ。  ルフォル王国は、古代帝国の末裔よ。その誇りは貴族だけでなく、民もよく口にする。ならば、他国との交渉にその誇り高い王族の犠牲を強いるのは、おかしくないかしら。どうしても避けられない衝突や被害を減らすための政略なら、王族の義務と割り切れたのに。  王族同士の確執のために、本来必要かわからない政略結婚で己の人生を犠牲にする? 贅沢な生活をする王族の義務? 違うわ。私も叔母様も、それがルフォルの民に必要な結婚なら、何も言わずに従う。恋心が泣こうと砕けようと、王族の義務だと同意した。  叔母様の二十年と、私が犠牲にされた十年を……しっかり返していただくわ。
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