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34.後悔しないと決めたの
お父様に現実を突きつけた日の夜、自室で窓の外を眺める。テラスへ出ず、窓の方へ向けて置かれた長椅子に座って。ただ景色を見ていた。
大きな月は傾いて、美しい姿を誇るように輝く。照らし出された庭の花が、風に揺れるのをぼんやりと目で追った。吐き出した言葉に後悔はない。あれは叔母様の悲しみ、同じ運命を辿りかけた私の痛みよ。
お父様が伯父様と対峙し、王位に興味はないと言い切ればよかった。あなたの在位を支える臣下になると、誓えば済む。ただそれだけなの。お父様も伯父様を押し除ける気はなかった。掛け違えたボタンはそのままにされ、今になって指摘されても直せない。
「シャル、いいかしら」
ノックと一緒に響いた声に、もちろんですと返した。立ち上がって扉を開き、セレーヌ叔母様を迎え入れる。部屋を見回し、皺になっていないシーツに苦笑した叔母様は軽く首を傾げた。
「窓の外を見ていたの?」
「ええ。考え事をしていました」
「ダニーとやり合ったのね」
「……許せなかったのです」
お父様がどこまで気づいていたのか。察していたかなんて、外からわからない。セレーヌ叔母様が失った二十年は、私が縛られた十年とは比べ物にならないだろう。若く美しく、希望に満ちた未来が突然奪われた。
兄同士のくだらない争いで、蛮族と見下した地の王子に嫁ぎ、酷い扱いを受けた。叔母様に同行した侍女から、無理やり聞き出した時……目の前が赤くなったわ。女をなんだと思っているの? 女から生まれ、育てられ、自分勝手に利用しようだなんて。
「怒ってくれて嬉しいわ。私はもう、そんな感情すら捨ててしまったから」
叔母様の声に滲む諦めに、胸が締め付けられる。隣に立つ叔母様の手を引き、並んで長椅子に腰掛けた。それから肩に寄りかかる。何を言えばいい? こんなとき、どんな言葉も届かない。
「レオはどんな感じ? 優しくしてくれるの?」
話を逸らしたセレーヌ叔母様は、私の銀髪を撫でながら柔らかな声を響かせる。
「とても執着心が強くて、私を中心に生きていて、周りを勝手に罰しようとしますわ。でも、私にだけは優しい人です」
「まぁ! それでは二人とも同じタイプの男性を選んだのね」
驚いたように声をあげ、叔母様はくすくすと笑った。その振動が伝わって、私も笑みを浮かべる。目の前のガラスに映ったセレーヌ叔母様の笑顔は、すべてを乗り越えていた。過去は過去、割り切っているように思える。
「叔母様は、強いですね」
私はまだそこまで許せません。お父様の選択も、伯父様のやり方も、両方とも認めない。呟いた私と目を合わせぬまま、叔母様は重なるように首を傾けた。互いに寄りかかり合う形だ。
「そうでもないのよ。ユーグが待つと言ったから、その言葉がなければ砕けていたわ」
挫ける程度ではなく、心が粉々になって壊れてしまっただろう。叔母様の言葉に頷く。同じ場面で、レオが同じ言葉をくれたら……私は二十年も頑張れるかしら?
ぼそぼそと言葉を交わしながら、叔母様と並んでベッドに横たわる。今日は一人で眠りたくないし、離れたくないと思った。私、まだ大人になるのは早いみたい。
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