36.お仕置きを希望するのね

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36.お仕置きを希望するのね

 レオが何かしている。私に隠して、こそこそと……貴族達と連絡を取り合っていた。 「レオ、私に話すことがあるでしょう?」 「そうだな、お仕置きをしてくれるなら話してもいい」 「……いいわよ?」  ちゃんと話すなら、考えてあげるわ。ご褒美じゃなくて、お仕置きを強請るところが壊れている。本国に残るル・ヴァリエ公爵家の次男だったレオポルドは、嫡男の控えだった。同じ両親から生まれて、驚くほど格差のある扱いをされた。  勉強も剣術も礼儀作法も、すべて教師の質が違う。金がないわけはなく、最低限の教養だけを与えられた。兄を超える優秀さを示さぬよう、間違っても嫡子になれると期待せぬよう。これを、両親の愛情と捉える人もいるだろう。  無用な兄弟の確執や家督争いを防ぐと同時に、歪な家族の形はレオの感情を抉った。愛されない自分を呪い、大切にされない己の価値を見失い……そこへ現れた私との婚約話。レオは執着を覚えたわ。  誰も意図しない形で、レオの歪な心は私を求める。己の存在価値全てを、私に置き換えた。依存するレオは婚約者という地位に安堵を覚え……ある日奪われたの。その時に完全に壊れてしまったのでしょう。ヒビが入っても騙し騙し使ったグラスが、ついに耐えかねて砕け散るように。 「本国へ戦いを仕掛けるなら、準備が必要だ。ルフォル貴族の大半は、義父上を選んでいる。それぞれの本家筋が渡った。向こうに残るのは、分家ばかり」  説明されなくても知っている情報に頷く。レオはにやりと意地悪い笑みを浮かべた。この顔、悪巧みするときのお父様によく似てるわ。やっぱり生みの親より育ての親の影響が大きいみたい。 「彼らに探りを入れさせた。その返信が届くのが、明日だ」  渡り鳥の形をした魔法道具で、手紙を送り返信を受け取る。予定通り届く情報によって、対応が決まるのだろう。 「それだけ?」  隠す必要なんてないじゃない。眉を寄せて不満を訴えれば、レオは私の手を握って唇を寄せた。 「いや。俺はシャルの願いを叶えるよ」  まだ誰にも話していない計画を、知っているような口ぶりだ。黙って先を促した。 「シャルは、本国を切り離したいんだろう? もう二度と干渉されないよう、縁を切ってしまいたい。俺はそれを叶えるための手を打った」  目を見開いた私の呼吸が乱れる。心音が高鳴り、視界が揺れた。 「なぜ」 「すまない、日記を読んだ」  種明かしされ、高揚した気分が怒りに変わる。ダメだと言ったのに! 読みたいと強請られた私が、絶対にダメと拒んだのに無視したのね。それでお仕置きを願い出た……上等よ。 「レオ、私に触れるのを七日間禁止するわ」 「……七日……長いな」 「短かったら罰にならないでしょう。遠くからそっと眺めるだけ、話しかけるのも禁止よ」 「暴走したら」 「二度と名を呼ばない」  レオは頬を赤らめ、まるで告白されたようにうっとり目を細めた。触れていた手を離し、足元にへたり込んだ。 「それでこそ……俺のシャルだ」  この変態でいいの? そう思うけれど、仕方ないわ。こんな変態でも好きなんだもの。
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