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37.決起する ***SIDEル・ノートル伯爵
ようやく許可が降りた。命令によって、仕掛けた罠の発動合図を送る。これで動き出すと、俺は笑みを浮かべた。きっと黒い内面を反映した、悪い笑みだろう。
「待ちましたね」
妻は安堵の息を吐く。一緒に行きたいと強請る分家を説き伏せ、今後の仕掛けのためだと言い聞かせた。何度も説得した過去を思い出し、確かに待ったなと自嘲にかわる。
「だが、その価値はあるはずだ」
砂の玉座で仮初の権力を振るう男に、我々は首を垂れることはない。ルフォルの貴族は、あの日決断したのだ。皆が慈しんだ末姫セレスティーヌ様の、恋が壊れた日――王家への信頼が揺らいだ。
隣大陸の小さな遺跡に、ご先祖様の遺産があったとして……それがどこまで重要なのか。民にとって誇るべきは、先祖の功績ではなかった。確かに大切かもしれないが、それ以上に姫の幸せを願う。長く続いた直系の血を、色濃く残すセレスティーヌ姫は、生きた遺跡も同然だった。
それ以上に、あの方の笑顔は周囲を幸せにする。ただ美しいだけではない。慈愛に満ち、民を愛した姫を、民も敬愛した。その方のささやかな恋を、貴族も応援したのだ。ただ一人の暴君が壊すまで……世界は優しさに覆われていた。
やっと願いが叶う。セレスティーヌ姫の隣には、騎士ユーグが戻った。もう心配はいらない。あの王は不要だ。本国は徐々に乾いている。報告書を手に、本国に残る貴族の苦労を推しはかった。
大地は乾燥し、川は細くなっていく。それでも手を打つことなく傍観する王に、民も叛逆の準備を始めた。
あの王は知らないだろう。ルフォルの貴族家に伝わる言葉を――。足りぬ器なら容赦するな。王としての才覚のない者が立てば、国を滅ぼす。それを避けるために代々伝わる一言は、初代王の口癖だったという。
王家にも同じ言葉が伝わっている。事実、第二王子だったダニエル様はご存じだった。忘れているのは王のみ。
「避難する民に、船を使うと聞いた」
「ええ、私の実家も動いていますわ」
妻は伯爵家の令嬢だった。本家筋ではないため、親族はまだ本国に残っている。独自に連絡を取った妻の自信ありげな微笑みに、本心からの笑顔を向けた。
「ありがとう」
ここまで一緒に来てくれ、こうして今も支えてくれていること。すべての思いが込み上げる。まだ何も終わっていない。始まってさえいないのに……礼が口をついた。
「何を言うの。姫様のご苦労に比べたら、私なんて何もしていないわ。あなたもしっかり働いてきなさい……待っていますから」
ここで、待っている。妻の言葉に背を押され、俺は一つ大きく息を吸った。
反撃の時だ。愚かに踊り続けた男の靴を奪い、床に叩きつける日が来た。
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