39.欲しいものの優先順位

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39.欲しいものの優先順位

 本国からの返信が次々と舞い込む。手紙を即座に開封し、読んでは箱に整理した。かなり待たせてしまったので、一部の手紙に涙の跡が滲んでいる。もっと早く手を打てばよかったわ。 「本国はそれほどひどい状態か」 「ええ、すぐに動きましょう」  後悔が滲んだお父様の声に、私は明るく応じた。伯父様へ反撃よ。狼煙は向こうで上がる。本国から迎えの船が来るまで、私達は必要な準備を進めるだけ。 「この屋敷と領地は私が守ります。後顧(こうこ)(うれ)いなく、兄上と対峙なさってくださいね」  セレスティーヌ叔母様の覚悟を秘めた言葉に、私達は気を引き締める。ユーグ叔父様と結ばれた叔母様の幸せは、二度と壊させない。私は叔母様の望み通り、同じ道は辿らないわ。 「魔法道具がこちらにあればよかったんだが」  掘り始めたばかりの遺跡は、まだ何も発掘されていない。現存する魔法道具は少ない。通信に使う渡り鳥だけ。海を渡るための船を動かす魔法道具は、すべて本国の管理だった。  ただし、本国から迎えの船はもう出た。王宮管理となっていても、実際に実務をこなすのは現場の貴族だ。手足となる貴族がこちらについたら、王であろうと何もできない。文官の許可が出て、武官が行動に出た。命じても応じないだろう。  一つの時代が終わるのだ。ルフォル王国の流れに終止符が打たれても、一族と民は残る。新しいルフォルの伝説が始まるだけだった。伯父様はそこを理解していない。王家が終われば、ルフォルの一族が消滅するかのように吹聴した。  大人しく拝聴した本国の貴族の、引きつる顔が目に浮かぶわ。まるで悲劇の主人公のように、己の不幸を拡大して伝えることで周囲を巻き込もうとした。民も貴族も、もう知っている。ルフォルが滅びるような危険があるとしたら……。 「本国の旱魃(かんばつ)が最大の敵ね」  乾いていく大地の原因はわからない。ご先祖様の記録によれば、元々乾き切った大陸だったらしい。何かしらの方法を使って、大陸の渇きを潤したのなら……その魔法道具が残っていてもおかしくないのに。  伯父様が秘匿する先祖の手記に、対策方法が書かれていればいいけれど。手記を奪うついでに、玉座も明け渡していただく予定だ。あくまでも私達が欲しいのは、本国の旱魃への対策方法であって、玉座ではないの。  お父様が玉座に座ったら、次は私達になる。それは回避したかった。この話はお父様も同意で、王になるのは別の家でいいのではないかと結論が出ている。今回の叛逆が終わるまでは、口外禁止だけれどね。家族だけの秘密にしておいた。 「レオはどうした?」 「お仕置き中ですわ」  指を折って数え、笑顔で残り日数を告げる。 「明後日には戻ってきます」 「……娘とはいえ夫婦仲について口出しはしないが……気をつけろよ」 「ええ、心得ておりますわ」  匙加減を間違えたら、私が噛まれる。猛犬を飼うなら、主人の心得ですもの。お父様は言いたそうな言葉を呑み込み、溜め息を吐いた。
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