集め人

1/5
前へ
/5ページ
次へ
「これも違う。これも違う」 俺の目の前の何かが砂浜を散策している。 月のない夜では目の前にいる何かがなんなのかすら判別できない。それでも波の音に混じって聞こえる「これも違う」という言葉だけは耳に届く。くぐもった感じがするが、なぜかはっきりと聞こえる。 言葉を発しているのだから間違いなく人間だ。そう思いたい。 一心不乱に何かを探している姿を見ると、その前提が覆りそうで不安にかられる。 ちなみに俺は今、首だけが砂浜から出ていてそれ以外が地中に埋まっている。全く動けないのだ。それを説明しようとすると話が長くなるので簡単に話すが、怖い人に捕まって埋められた。 俺と似たような体験をしているヤツがもう一人いる。俺から少し離れたところで同じように首だけでている男がいた。俺が埋められたあとに埋められた。最初は発狂していたが今は静かになった。 「運が良ければ明日、サーファーか海水浴客に見つけて貰えるだろう」 そう言い残し、怖い人はどこかに行ってしまった。 干潮と満潮の時間は知らない。今が干潮で明日までに満潮が来なければ、水に浸からずに見つけて貰えるという話だと思った。 しかし埋められてしばらく経つと、怖い人が言ってた意味がそうではないかもしれないという考えが浮かんだ。なぜなら、海から上がってきた人間のような影が一心不乱に何かを探し始めたのだ。 「これも違う。これも違う」 大海原に声が散ることなく耳に突き刺さってくる。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加