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重い麻袋を担いで、城下町から2時間ほど歩いたところに、元王が住む村がある。
「ただいま。」
その中のあばら家のひとつに、元王は入った。
「あなた、お帰りなさい。」
元王を迎えたのは、山奥の村の村娘だった。
その後、元王と娘は結婚し、貧しく慎ましくも幸せな日々を過ごしていた。
そして……。
「パパ、おかえり!」
二人の間には男の子が生まれていた。
もう、今年で2歳になる。
「あぁ、ただいま。今回の稼ぎではあまりたくさんの食糧が得られなかった。少しだけ物足りない思いをさせるかもしれない。」
麻袋の中を広げ、元王は申し訳なさそうに妻に言う。
妻は、その中身を見てあれこれ考える。
「大丈夫、上手に使えば食材も長持ちします。さぁ、次の買い出しの日には少しでも美味しいものが食べられるように頑張りましょう。あなたは田畑を、私は工芸品を。お互い頑張りましょうね。」
美しい服など持ち合わせていないけれど。
毎日お腹いっぱいに食べられる日などなくなってしまったけれど。
それでも元王は、幸せだった。
その日々には、元王が王になったときから欲しかったものが全て集められていたから。
公務から離れた自由な日々。
自分のことをひとりの人間として認めてもらえる、そんな日々。
そして、惜しみない愛が、今の日々には溢れている。
「さぁて、働くとするか。」
元王はこの生活を守るため、この日も鍬を持ち畑へと向かう……。
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