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大魔法使いについて
私は眠りの魔法を発動した。
私達に追いすがる敵兵は次々と倒れたが、ノーマン達一行は馬の速度を落としはしなかった。それどころか、ノーマン達はさらに馬の足を速めたのである。
この状態の間に姫君を奪還してしまおうとの意思だろう。
大人しいが俊足だったミゼットがノーマンの馬のネフェルトの横に並び、ミゼットの持ち主であるアシッドが私に向かって大声をあげた。
「すごいですね! 俺達はいらないや!」
「そんなことはありませんわ! 魔法陣に敵が入っていなければ無意味ですもの」
「わお! 俺達は敵を呼び寄せる餌ですか!」
アシッドは今まで私に対して友好的に話しかけてきた人だったが、なぜか今の彼には私に対する棘ばかりを感じる。
「混戦していたんだ。普通に感謝しろ」
ノーマンが憮然とした声でアシッドを咎めたので、やはりアシッドは私に思う所があったのだろう。
「すいません、隊長。すいません。ティア大魔女様。俺は以前に魔法攻撃のための囮に使われた事がありましたそんな
「まあ! 何があったの?」
「大したことはありません。ティアさんのメテオのようなものを呼び出す魔法使いを必死に守っていたのに、俺達の真上にその魔法が落ちて来ただけです。ええ、敵よりも俺の仲間が沢山死にました」
「まあ! その魔法使いは何ていう名なの! そんな下手糞、魔法力を奪ってやりますことよ!」
アシッドは吃驚した顔を私に向けて、下手糞? と聞き返して来た。
「最強攻撃魔法のメテオを呼べる術者ですよ」
「あら下手糞よ。囮を使わねば詠唱も終わらないって、使えない。そんな無駄に長い詠唱を終わらせたくせに、落とす所に落とせない魔法効果。下手糞以外の何だというの」
「いえ、ですが、あれはとっても有名な大魔法使い様ですよ。我が国が大金を積んで魔法戦術顧問に召し上げたと聞いてます」
私はノーマンを見上げる。
普通にアシッドが口にした大魔法使いは誰なのか聞きたかっただけなのだが、ノーマンは嫌そうな顔をしただけで私から顔を背けた。
わお!
私から顔を背けるなんて初めてじゃない?
「ノーマンもその魔法使いをご存じなの?」
彼は私に答えるどころか、ネフェルトに速度をあげるようにと合図をした。
ネフェルトはミゼットを引き離してぐんぐんと目指す修道院の敷地内へと乗り込んでいったが、ノーマンは私に魔法使いの名前を教えてくれなかった。
私以外の、ええと私と匹敵しそうな大魔法使いは三名いる。
治癒魔法に特化し、女神の化身と噂され尊ばれている白き魔女、ハルメニア・ヴィーンゼット。
美しき外見と嵐のような猛々しさを持った、ルーパート・グリフォン。
そして、我が宿敵のシュメラーゼル。
言い換える。シュメラーゼルは、宿敵でも何でもない。ゴキブリに対するぐらいに私が唾棄している奴だった。次に会ったら八つ裂きの刑にしてやりたいくらいの男であるのだ。
誰がお前の恋人ですか!
あの勘違い無能男。
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