強盗団をお縄にしよう!

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強盗団をお縄にしよう!

 久しぶりの冒険者パーティは、イーサンという剣士にベイルという剣士見習い、そして、魔法使いの私である。  フェイフェイは魔獣でもあるのだが大きな猫でしかないので(それも愛玩用の狩りもしない長毛種だと思い込んでいる)、彼女が居心地の良い城から出てくるはずは無いのでお留守番だ。 「僕達がぐずぐずしている間に被害が増えたらどうするおつもりなんですか!」  ベイルがぷりぷり怒るのは、私がイーサンの家を訪れた翌日に強盗団退治を決行するはずが、三日間雨が降った事により四日目に決行日をずらしたからだ。  私は雨の中働きたくない人であるし、イーサンは雨の日は失った足が痛む。  そんな私達に付き合わされて三日も城に閉じ込められた少年は少々不貞腐れており、強盗団の情報の一片を聞いたイーサンはベイル少年を揶揄い始めた。 「強盗団って、近所の国の流れ兵じゃないか。これは彼等を戦力にして君が王様に復活する布石にしろという神様の思し召しかな」  しかし、揶揄われた子供は純粋すぎた。 「やめてください! 僕はイーサンの子供のままでいたいです!」  本気でイーサンに、それも涙目で言い返し、イーサンこそその純粋さに心打たれたようである。皮肉っぽい顔つきも作っていた癖に、単なる好々爺にしか見えない表情に戻ったではないか。 「おお、すまなかった。ああ、君はわしの大事な息子だ!」 「お父さん!」  冒険のはずがファミリードラマに変わったどころか、祖父と孫だった関係が父と息子にジョブチェンジしてしまったらしい。そんなお気楽な仲間を私は横目で見るだけにして、状況を教えてくれる村人に私は再び向き直る。 「その強盗団の頭領はどんな奴なの? やっぱりローエングリン国の流れ兵士なのかしら」 「いえ。あの、大魔法使い様です。ああ、あの素晴らしき大魔法使い様が悪の心に目覚められてしまうだなんて!」  ヨヨヨと効果音を書き加えたいぐらいに村人である中年女性は泣き崩れ、この地域で崇められていた大魔法使い様なんて誰だったろうと私は腕を組んで悩むしかなかった。  魔城が城主が居なくても稼働していた事もあり、それなりの魔法使いはこの近辺に近づくことが無かったはずなのだ。  魔力干渉。  自分よりも上位の魔法使いや魔物がいると、自分の魔法がキャンセルされたり効果の変異を起こすという現象だ。  私ほどの魔力と魔法錬成度があれば魔城の干渉も受けないが、上位魔法者でもイーサンの住む魔城は驚異的な魔力干渉を引き起こすのだ。  魔法使いは臆病者に思われやすいがその通りで、自分の評判を落とすような場所や行動は取らない者が多い。そこで、こんな自分の魔法が使えなくなりそうなところには、頼まれても来ないのが常識である。  だからこそ、ベイル暗殺の命が私に来たのであり、村人の大魔導士の言葉に私は首を傾げるのである。  誰が来たの? と。  確実に魔力干渉を受けるだろうシュメラーゼルが来るわけがない。  ハルメニアは人助けの為になら駆け付ける……いや、病の人でも自分のフィールドに呼び寄せるだろう。  彼女ならば重病人を自分の家に運び入れる瞬間移動魔法も使える。  では、ルーパートか?  長身で金髪に青い瞳の彼は侯爵様と呼びたくなるぐらいの風貌だが、彼は魔法使いというよりは召喚士であり、嵐のような猛々しさで済ましてしまいたい存在でもある。  クマや狼に変化するのはいいが、いつでも変化できるようにローブの下は何も着ていないのは如何なものであろうか。 「ああ! エレメンタイン様がなぜあのようなことに!」  え、私?   一体何が起きているの! 「どういうことです!」  私では村人の首根っこを掴んでガクガクさせてしまうからと、賢いイーサンによって質問者はベイルに変更された。  天使のようなベイルが小首を傾げて、お願い、と笑顔作るや、村人は話す話す、その中年女性以外までも集まって、今やベイル様への陳情会の有様だ。 「これはきっとカリスマって事ね」 「いや、普通に君じゃ怖いから」 「もう! イーサンったら」  そして話を纏めてみれば、黒いマントを羽織ったエレメンタイン様とやらは、最初は村々の頼みを快く引き受けては魔法で対処してくださるという、噂通りの民の為の魔法使いとして振舞っていたという。  彼女はルーザの村を拠点にして居座り、そのうちにローエングリン国から逃亡してきた兵士を集め始めたと思ったら、その兵を使って一気にルーザとベイレンの近くに居を構えていたローエングリン国の伯爵ラガシュ家の城を襲ったというのだ。  エレメンタインはその日から民の為という仮面を脱ぎ去り、今やそのラガシュ城で女盗賊として人生を謳歌しているそうだ。 「あれは凄い美人だった。あれじゃあ、男達は全員言いなりだね」 「ああ、そうじゃそうじゃ。あれは胸が凄くデカくて色っぽかった。そうだ! きっとエレメンタイン様はシュメラーゼル様に振られて壊れてしまわれたに違いない。シュメラーゼル様をこの地にお呼びして説得してもらうのはどうだろう?」  私達に、いえ、ベイルに陳情していた村人はそのうちに勝手に自分の思う事をぺちゃくちゃと話し始め、この村にメテオを落としてしまおうかと私はおしゃべりな村人にウンザリし始めたぐらいだ。 「まあ、とにかく、ラガシュ城に向かいますか」 「私も連れて行ってください!」  私は声がした方を振り向くと、おや、びっくり、ネフェルトがいた。  馬上には私達に叫んだ主と思われる十代の女の子が乗っていたが。
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