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ラガシュ城へ
ノーマンの二度目の合図が起きるや、私達はエマの部屋に瞬間移動をした。それだけでなく、城壁に小メテオを落として崩すというおまけつきだ。
ついでに崩した城壁前に私の幻影も置いて来た。
穴の開いた城壁前に立つ黒き魔女の姿に恐れをなした兵士は、次々に城を放棄して逃げ出すか、私を殺そうと幻影に向かって行った。
つまり、ラガシュ城の反乱兵らしき盗賊団の殆どが中ではなく外に出て行ってくれたのである。
もちろん、外に出て行った敵が再び戻って来れないように、私は自分が崩した城壁を簡易土魔法で修繕しちゃっている。
大魔女な私自身に穴は無し!!
さて、中に侵入して驚いたのだが、ノーマンの陽動など必要ないと考えていた自分を蹴り倒してやりたい、という事実があったことである。
いや、考えればわかるはずだ。
国境線を守る城壁に魔法防御が掛かっていないはずは無い。
また、自然災害や魔法に対する防御として、あるいは住む人々の家内安全的な祈りも込めるためには、城の基礎に魔法陣を組み込んで建設をするのは、考えれば当たり前なのである。
ハハハ、いくら大魔法使いの私でも簡単に入れなかったではないか。
私はエマの部屋で私達を出迎えた小汚い男に賞賛の目を向けた。
「素晴らしいわ! あなたは城落としの名人なのね」
ノーマンは私の称賛を喜ぶどころか、しゃがみ込んで落ち込んでしまった。
「まあ、どうなさったの?」
「そうか。君の性はアンティゴアだ。あの有名なアンティゴアの陥落の元国王一族のアンティゴアだったのか!」
イーサンの合点がいったという言葉に、今度はベイルがノーマンの隣にしゃがみ込んだ。
「あら、ベイルまで。あなたまでどうしたの? アンティゴアの陥落なんて二十年も前の話よ。あなたには全く責任のない話でしょう」
「だって、僕のお母さんが嫁入りしたことで、母の受け継いでいたアンティゴアの領地の五分の一が持参金としてローエングリン国に取られてしまいました。僕が王様になればその土地を叔父様に返してアンティゴアの復興が出来るのに、僕は自分の命惜しさに国から逃げてしまいましたから、アンティゴアの民は国を取り戻せません」
「違うよ。君のせいじゃない。俺がまだ十三歳だったからだ。力のない俺は姉と土地を守れなかった。君は逃げた時は十一歳だったでしょう」
「ああ! 叔父様!」
感動の場面なのだろうが、しゃがんだままの二人が抱き合う姿は格好悪いの一言で、私はイーサンの方に振り向いていた。
「アンティゴアの陥落と城落としが関係あるの?」
「関係あるも、アンティゴアは城塞都市だよ。魔法防御された難攻不落な都市だったのに、一人の馬鹿者によって破壊されたんだ。本当に馬鹿な話だよ。美しい恋人を助け出す為だろうが、浅はかな男が魔法城塞の要である要石を盗んだのだよ。そして防御力を失った都市は進撃者達によって破壊されることになった。ノーマン君、君はこの城の要石を盗んだね」
ノーマンはよっこいしょと立ち上がると、ポケットから取り出した青い大きな石を掌に載せて私達に見せつけた。
青い石には精霊が宿っており、石から出てきた精霊は三頭身の人型をしただけの青い影だが、それはノーマンの手首のあたりをぐるぐると飛び交っている。
まるで、「帰ってきましたよ、ご主人様!」と言っているように。
「まあ! その石はアンティゴアのものだったのね」
「ああ。これで三つ目。アンティゴアの復興には石が後二つ必要だ」
「あなたはフォルモーサスの近衛兵なのに、いえ、そのためにフォルモーサスの近衛兵となったのね。あの国は豊かだからこそ軍備も強化している。そして、他国の要請で兵の貸し出しもしているもの」
ノーマンはフフッと悪戯そうに笑った。
「まあまあ! あなたって本当に悪い人でしたのね!」
「なかなか盗める機会がないから、十八歳から頑張っての十年目でまだ三つという体たらくだけどね。」
「体たらく? たった十年で三つも城を落としておいて?」
「一番落としたい君は落ちてくれないじゃないか」
彼は私ににっこりと微笑んだ。
口元だけでも思いっ切り作り笑いと見える笑い方で。
なんて魅力的な笑顔を持った嘘吐きな大泥棒なんだろう、と思ったから。
いいえ、なんて節操のないハーレム思考の男かしら!!と憤慨したからよ。
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