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依頼を受けたら行くしかない
旅費も出す、一緒に旅行をしてくれるだけでいい。
結局私はノーマンの申し出を受けてしまっていた。
浅はかと言うなかれ。
彼が私に跪いて懇願するのは、私が依頼者との面談に使う店内。
今後のことを考えると、ノーマンをどうにかしないと、と思うでしょ。
さて、私達が顔を合わせたこの町は、中立都市とも呼ばれるシュクデンである。そして、シュクデンはクロ―ドリアに隣接している立地だ。ならば、今すぐに旅立っても明日の昼には戻って来れる。ノーマンに言い張られなくとも私でもわかる。拘束二日だが実働は四時間で良いと言われたら、私は仕方がないと受け入れるしかない。
四十八時間の時給が発生しているのに、八時間しか働かなくて良いのよ。
ということで手打ちにした。本当は時間を拘束される事こそ嫌なんだけど、気に入っているこの町で自分への悪評を立てられたくない。
何度も言うが、ノーマンは無駄に美形な男なのだ。
胡散臭い私よりも、彼の方が人望を集めやすいだろう。
ただでさえ、私は世界中に支部を持つギルドと仲悪いし。
そうして商談が纏まった私達は酒場を出たが、ノーマンは彼の部下達が離れた一瞬に、私の耳に囁いてきた。
「クロードリアの国境まで二時間ぐらいでしょう。そこまで協力してくれたら、その後は君は好きに帰っていい。俺はクロ―ドリアに入りたいだけなんだ」
「そうね、私は行って帰って丁度四時間ね。ええ、最初からそう言う依頼なら最初からそう言いなさいよ。て、違うわね、あの国は女性同伴で許されざる恋に関して結婚証明を与えることで外貨を稼いでいるから、あなたと私が恋人同士である必要があるのね」
世界的に有名な魔女と王族を守る任につく近衛兵など、許されざる過ぎる組み合わせであると言えよう。駆け落ち婚にはぴったりに誰もが思えるから、敵国の兵士だろうがクロ―ドリアは国境越を見逃す可能性が高い。いえ、敵国の兵士でさえクロ―ドリアを頼ったと、広告に使えると彼らこそ両手を広げて待っていそうね。
「そう。お願いだ。まず前金の五千バイツを君に渡す。残りはクロ―ドリアに俺が入った後に」
「あら、当初の二日の約束の四十八時間分、ではなくて?」
「すまない。恥を忍んで告白するが、今回は個人的に君に依頼となる。俺に出せるのは四時間拘束分だけだ」
「――いいわ」
兵士の懐事情は知っている。
だから兵士が敵国で略奪行為に手を染めるのか、という理由込みで。
近衛兵ならば普通の兵士よりも給金が高そうだが、貴族など後ろ盾が無ければ給金など右へ左へ流れるだけのものだろう。
ギルド依頼もできない人達のために、私はパートタイム魔女になったのよ。
そうでしょう?
私はノーマンに手を差し出す。
彼は銀貨二枚の入った小袋を私の手の平に乗せる。
「ありがとう」
「よろしくてよ。四時間の依頼をお受けします」
私の返事が当たり前のように、車輪の音が私達に近づいて来た。
そしてノーマンは、馬車の用意も私が断るわけ無いと分かっていたから、という風にして、その馬車のドアを開けた。
「さあ乗って下さい。我が憧れのあなた」
彼は私に対して、なんと、本当の恋人に差し出すように右手を差し出す。これ以上ない位に私を真っ直ぐに見つめる、というオプション付きで。
流石近衛兵。
私はノーマンの手に自分の右手を乗せる。
すると、え? ふわっと私の身体が宙に浮いた?
え? と思う間なく私は、ノーマンによって馬車に乗りこまされている。
これは、彼が今までに国の王女、あるいは美しき王の寵姫達をもエスコートして来たからだろう。
彼は騎士としても最高なのかもしれない。
こんな魔女風情に対しても敬意を持ってくれるのだから。
ただし兵士としては、どころか、普通の男としても最悪だ。
馬車の内部を見回した途端に、私はいつもの冷静さを取り戻した。
ノーマンが用意していた馬車の内部は、女心の何一つ加味していない、自分の目的だけで作られているというものだったのだ。
「このあからさまな戦争に行きますって状態はなんなの? もう少し隠すって事を考えたらいかが?」
「え、隠していますよ」
私はもう一度馬車を見回して、あからさまに隠し扉です! な引き出しや、無駄に布で覆っていますな剣の束を指摘してやった。
「国境で馬車内を検分されるのは常でしょう。あなた方は何をしているの?」
「ハハハ、すいません。時間が無かったものでいつものようにはいきませんでしたが、ハハ、バレバレですか。ああ、そうだ! そこは魔女様のお力でなんとかなりませんか? 俺と一緒に牢屋に入るのはお嫌でしょう」
「あなたは、隊長になるだけあるのね。私を契約で四時間拘束して、あとは私の魔法の使い放題を企んでいたなんて。ええ、いいわよ。四時間だけね。契約の四時間だけはあなたに付き合いましょう。契約ですもの」
「ええ。あなたの魔法は困っている下々の為にある。頼みます」
今度の私は、よろしくてよ、とは返せなかった。
ノーマンの言った台詞は、私がギルドと袂を分かった時の捨て台詞なのだ。
この男は、私を調べ上げた上で私に依頼を持ってきたの?
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