美しき姫君と卑しい魔女風情

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美しき姫君と卑しい魔女風情

 ノーマンが必死に救おうとしているのは、ペネローペ・フォルモーサス姫。  フォルモーサス国の第二王女にして、美しさでは他に追従を許さない程の美貌の姫と噂だ。  だがしかし、彼女がクロードリアに誘拐されたのは、彼女が美しいからではなく、少々惚れっぽく考えが足りなかったからである。  ディーナが、ええとデイモンがディーナと呼んでと言い張るので、ディーナが言うには、姫はクロ―ドリアの兵隊と恋に落ちてクロ―ドリアに駆け落ちしてしまったらしいのだ。  それならば国の恥だろうが放っておけば良いと思うのだが、彼女の駆け落ち相手は彼女と結婚せずに彼女をクロ―ドリアの第三王子に差し出したのである。  これは最初から仕組まれていたことで、クロ―ドリアはペネローペ姫に子供を産ませ、その後にフォルモーサスに攻め込むか暗殺で王族一人残らず殺しての国の乗っ取りを考えていたということだ。  フォルモーサスの王族が全員死ねば、ペネローペ姫が産んだ子供が王になる。 「どうしてそこまでクロ―ドリアの謀がわかったの?」 「ティア、姫というものには侍女が絶対についているものですよ」  私がディーナとデイモンを呼ぶ代わりに、彼は私を頼まれてもいないのにティアと呼びだした。その上、当たり前のようにノーマンまでも私をティアと呼び出すとはどういうことだ。  だがしかし、ノーマンだけでなくノーマンの部下全員が私を、ティア、と呼び出した上に、己のファーストネームを私が呼ぶことを強要しているので、ノーマン一人を責められない。  いいえ、ノーマンを責めるんじゃ無く、私こそ慣れ合いたくない姿勢を見せればいいのでは。 「アンティゴア近衛隊長様。その侍女が嘘をついているというお考えは無くて? 仕えるお姫様は貧しくともお幸せなのに、豊かな国に戻りたくて嘘の報告をする侍女も多くいてよ」  愛する王子の気を惹くために、嘘の噂を流す侍女だって星の数ほどもいる。 「ティア、信じてもらえないかもしれないけれど、その侍女はアシッドのお姉さんなのよ」 「あら、それでは本当なのね。まあ! アシッドが子供を家に置いてでも危険な任務に就く理由がわかったわ」 「あら、アシッドには子供なんていなくてよ」 「まあ、そうでしたの? 私に宝物の息子を見せたいっておっしゃったわよ」 「まあ! ふふふ」  ディーナは物凄い勢いでアシッドに振り返る。  アシッドは、脱兎のごとく駆け出して行き、ディーナは物凄い勢いでアシッドを追いかけていった。 「可哀想に。俺達はメンバーを一人失った」 「もう!アンティゴア近衛隊長様ったら。では、失う前に進撃しましょう。私の滞在時間がどんどんと短くなっているでしょう」 「うん。そうだね。でもね、君を巻き込んでおいてすまないけれど、やっぱり修道院襲撃は俺達だけでやる。君は申し訳ないけれど、あと二時間、どこかに隠れていて。契約者の俺の願いならば、一緒に行動しなくても君の契約違反にはならないのでしょう」  私がアンティゴア近衛隊長と呼ぶことへの抵抗かと思ったが、ノーマンは本気で私を危険な目に合わせたくないようである。  後金が入っているだろう小袋を、彼は私にそっと差し出した。 「君は魔女で教会と関係が最初からない人でも、いや、関係が無いからこそ敵として認識されて襲われてしまう事になる。俺は君の平安を壊したくないんだ」  私はノーマンの物言いに全くの感動など無かった。  ただ、数年前に勇者だった男の言葉を思い出しただけだ。 「俺は君を守りたいんだ」  そいつは功績が讃えられてどこぞの国のお姫様と結婚し、今や次期王様という偉い偉い立場になっている。  魔女なんて下劣な人間との縁を切ってしまえるほどの、偉い偉いお方だ。 「わたくしは自分の身は自分で守れます!」  私はメテオという名の、燃えた大岩を呼び出す呪文を詠唱し始めていた。 「え、ちょっと、あれ、リガティア様!」  少し長かった詠唱が終わった数秒後には地響きが起きて、数百メートル先の修道院に私の呼び出したメテオが落ちた事を知らせた。 「修道院だ! 今すぐに修道院に向かうぞ!」  ノーマンが慌てた様にして部下に号令をかけているが、私はその姿を横目に修道院に閉じ込められていた姫と侍女二人を目の前に召喚しようとしていた。  私は大魔女なのよ。  下劣な大魔女でしかないのよ。
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