小さな画家

3/4
前へ
/72ページ
次へ
「でも、長所があることは良いことですよ」 「そうですね。でも、最近は自分の絵にサインを入れるようになってしまって……」 「サイン? プロの画家みたいですね」  私は少し驚きつつも微笑んで返す。子供が自信を持つことは良いことだが、どんなサインをしているのか気になった。 「でも、サインが変なんですよ。『!』とアルファベットの『О』なんです」  私は思わず振り返って、少年を見た。彼はいたずらっ子のように笑っている。自分のサインが謎めいていることを楽しんでいるのだろう。 「面白いですね。お子さんはそのサインの意味を教えてくれないんですか?」 「はい、聞いても答えないんです」  その言葉に、私はさらに興味を引かれた。『О』は名前の一部だろうが、『!』には何か特別な意味が隠されているに違いない。信号待ちの間、私はその謎をじっくり考えることにした。 「運転手さん?」  不意に沈黙が訪れたことが不安だったのか、母親が私に声をかける。 「失礼しました。少し考え込んでしまいまして」  私はニッコリと微笑んだ。 「もしかしてお名前は――個人情報なので答えなくても結構ですが――『アマダ』ではありませんか?」  母親は驚きの表情を浮かべた。 「そうですが、どうしてそれが?」
/72ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加