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「でも、長所があることは良いことですよ」
「そうですね。でも、最近は自分の絵にサインを入れるようになってしまって……」
「サイン? プロの画家みたいですね」
私は少し驚きつつも微笑んで返す。子供が自信を持つことは良いことだが、どんなサインをしているのか気になった。
「でも、サインが変なんですよ。『!』とアルファベットの『О』なんです」
私は思わず振り返って、少年を見た。彼はいたずらっ子のように笑っている。自分のサインが謎めいていることを楽しんでいるのだろう。
「面白いですね。お子さんはそのサインの意味を教えてくれないんですか?」
「はい、聞いても答えないんです」
その言葉に、私はさらに興味を引かれた。『О』は名前の一部だろうが、『!』には何か特別な意味が隠されているに違いない。信号待ちの間、私はその謎をじっくり考えることにした。
「運転手さん?」
不意に沈黙が訪れたことが不安だったのか、母親が私に声をかける。
「失礼しました。少し考え込んでしまいまして」
私はニッコリと微笑んだ。
「もしかしてお名前は――個人情報なので答えなくても結構ですが――『アマダ』ではありませんか?」
母親は驚きの表情を浮かべた。
「そうですが、どうしてそれが?」
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