優等生、凡人になる

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「成績が下がった……それだけなら、まあ理解できます。では、運動テストの結果まで悪化したとしたら、どう思いますか?」  私は一瞬言葉に詰まった。運動能力の低下は、体調や怪我の影響かもしれない。しかし、彼の言い方には何か他の問題があるように思えた。 「その日の体調次第ということもありますから……」  私の答えに、彼は静かに頷いた。 「確かに、それも一理ありますね。では、次の質問です。もし、その子が私からの大切なお願いを忘れてしまったら?」 「お願いですか?」  私は驚いた。成績の低下や運動能力の変化とは違い、精神的な側面に関わる問題だ。彼は少し笑いながら続けた。 「そんなに大げさなことではありませんよ。来週の陸上大会で、学校代表として出場してほしいと頼んだんです。それを、その子はすっかり忘れてしまったんです」 「それは……確かに不思議ですね。そんな名誉あるお願いを忘れるとは、普通では考えにくいことです」  私の答えに、彼はようやく満足したような表情を見せた。 「そうでしょう? 誰かに話しても、あまり信じてもらえないことが多かったので、あなたが同じ意見で安心しましたよ。」  車内は再び静かになり、私はアクセルを踏みながら目的地へと向かう。彼の話はどこか引っかかるものがあった。優等生だった子供が急に変わってしまった理由は一体何なのだろう? 彼はまだ何か話してくれるかもしれないが、無理に話を引き出そうとはしなかった。お客との間合いを大切にしながら、私は彼が自然と口を開くのを待つことにした。
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