優等生、凡人になる

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「姉の方は、文武両道で、体調管理も完璧な模範生です。学校でも誰もが彼女を称賛し、彼女もその期待に応えるように努力していました。一方で妹の方は、いたって普通。成績も運動能力もごく平均的で、特に目立つことはありません。唯一、妹が姉に対して抱いているのは、強い尊敬心……いや、それ以上の、崇拝に近い感情です」  姉を尊敬する妹。しかし、入れ替わりの話が本当だとすると、その尊敬心はどのように影響しているのだろうか? 「では、妹さんは姉を本当に崇拝しているとしたら、何かを頼まれればそれを全力で叶えようとするのではないでしょうか?」  折山さんは軽く頷き、私の考えを肯定するように応じた。 「そうでしょうね。彼女なら、どんなことでも姉のためにやり遂げるはずです」  私はそこでふと気づいたことがあった。姉が完璧ならば、どうして風邪をひいたのか。彼女の体調管理の徹底ぶりを考えると、それは想像しにくい。だが、もし姉が風邪をひいていたらどうだろう? 妹が姉の代わりに登校している理由が見えてくるかもしれない。 「ちょっと思いついたんですが、こういうことは考えられないでしょうか。姉は皆勤賞を欲しがっていて、だからこそ妹に頼んで、入れ替わって学校に通わせているのでは?」  私の言葉に、折山さんは驚いた表情を見せた。 「皆勤賞……ですか?」 「ええ。姉は、完璧主義者でしょう? 彼女が風邪をひいたら、学校での評価が下がるのを恐れて、どうにかしてその状況を回避しようと考えるかもしれません。それに、皆勤賞というのは一度逃せばもう二度と手に入らないものですから」  その考えが彼の中で形になったのか、折山さんはゆっくりと頷き始めた。 「なるほど……。確かに、それならば辻褄が合いますね。姉の完璧さに対する執着が、妹にその代役を頼む理由になる……」 「そうです。もちろんこれは一つの推測に過ぎませんが。姉の風邪が治れば、いずれまた元の彼女に戻るのではないでしょうか」  折山さんは、しばし黙考していたが、やがて笑顔を見せた。 「いやぁ、あなたは柔軟な考え方をお持ちですね。限りなく真実に近いと思いますよ。あ、あそこが自宅です」  目的地が見え、私も少しホッとした。仮説とはいえ、満足のいく推理ができたことで、胸の中に達成感が広がる。  折山さんが降りる際、振り向いてこう言った。 「そうだ、あなたの連絡先を教えてください。双子に真相を確かめたら、結果をお知らせしますから」
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