優等生、凡人になる

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 数日してから、私の携帯に折山さんからのメッセージが届いた。 「あなたの推理、見事的中しましたよ。妹が姉のために入れ替わっていたようです。あなたの指摘通り、彼女は皆勤賞をどうしても諦めたくなかったみたいです」  私は携帯を閉じ、助手席に視線を落とした。推理が当たったことに特別な感慨はなかったが、少しばかりの安堵感が胸に広がる。双子に関する謎は解けた。だが、思うことは一つ。人は、なぜそこまで「完璧」にこだわるのか。  タクシーのメーターをリセットしながら、ふと考えた。姉妹のように、誰かのために自分を犠牲にすることもあれば、逆に誰かのために力を借りることもある。それが人間関係の複雑さだ。だが、そこにはいつも「見栄」や「期待」が付きまとう。そういったものが時に、人を追い詰めるのかもしれない。  エンジンを再びかけ、次の目的地へ向けて走り出す。何事もなく日々が進むのか、それともまた次の「謎」が待ち構えているのかは分からない。だが、今日一日を終えた今、このタクシーには、少しばかりの満足感が漂っていた。 「次のお客さんは、どんな話を聞かせてくれるだろうか……」  バックミラー越しに、自分自身の姿を見つめながら、私はアクセルを踏み込んだ。
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